ローマは一日にしてならず

• Published in: におい・かおり環境学会誌 Vol. 42; no. 3
• Main Author: 高原康光
• Format: Journal Article
• Language: Japanese
• Published: におい・かおり環境協会 25.05.2011
• ISSN: 1348-2904

ジンチョウゲは春を告げる可憐な花である. 筆者は退職後も非常勤で同じ研究所に勤めているが, その研究室にはジンチョウゲやクチナシの鉢植えを置いている. ジンチョウゲは3月頃には開花し, 研究室はほのかな香りで覆われる. 一方, クチナシは梅雨時の花である. 清楚な花で香りはやや控えめである. しかし, それらの香りを語る時, その違いを表現するのに戸惑いを感じる. ジンチョウゲは沈香に似た香りであるとか, クチナシはジャスミン様の香りとか言われているが, 何だか釈然としない一面がある. 悪臭の違いについても同様である. 聴覚や視覚の領域とは異なる嗅覚の曖昧さが表現の仕方にも現れる. 「におい」の領域は曖昧な部分が多いだけに, 奥行きが深く面白いのも事実である. 筆者の30年に及ぶ現役時代の「におい」に関する調査・研究を3期に分けて考えると, 第1期が悪臭立入調査を中心とした化学分析の時代, 第2期が官能試験を併用した悪臭評価の時代, 第3期が悪臭対策を中心とした「ものづくり」の時代であった.