A-59.私たちの経験した顎矯正手術の合併症および偶発症と,その予防法について

顎矯正手術に関連して起こる合併症は通常不適当な術前設計や手術手技の過ちの産物であるといわれており, 多くの合併症の報告がみられる. それらは手術一般に共通して起こるものと, 顎矯正手術に特有なものとがある. 私たちは千葉病院が開設された1982年以来10年間で約600症例におよぶ顎矯正手術を施行し, 前述の合併症のいくつかを経験した. 全身的な合併症も数症例あった. 薬物誘発性肝炎6例(270例中), 5000cc以上の大量出血2例, 術中心停止1例, 挿管時無気肺1例である. 高度浮腫などにより気管切開を要するような気道閉塞や嘔吐による誤嚥性肺炎は1例もなかった. 幸いなことに私たちの経験し...

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Published in日本顎変形症学会雑誌 Vol. 2; no. 2; p. 192
Main Authors 市ノ川義美, 鶴木隆, 斉藤力, 内山健志, 松井隆, 高野伸夫, 大畠仁, 中野洋子, 松崎英雄, 米津博文, 堀川晴久, 瀧昌弘, 重松知寛
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本顎変形症学会 1992
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Summary:顎矯正手術に関連して起こる合併症は通常不適当な術前設計や手術手技の過ちの産物であるといわれており, 多くの合併症の報告がみられる. それらは手術一般に共通して起こるものと, 顎矯正手術に特有なものとがある. 私たちは千葉病院が開設された1982年以来10年間で約600症例におよぶ顎矯正手術を施行し, 前述の合併症のいくつかを経験した. 全身的な合併症も数症例あった. 薬物誘発性肝炎6例(270例中), 5000cc以上の大量出血2例, 術中心停止1例, 挿管時無気肺1例である. 高度浮腫などにより気管切開を要するような気道閉塞や嘔吐による誤嚥性肺炎は1例もなかった. 幸いなことに私たちの経験した合併症はいずれも適切な処置を施すことができ, 大事にはいたらなかった. 局所的合併症もあったが, 諸家の報告よりもかなり頻度の少ない傾向がみられた. 合併症の発生を予防するために私たちは次のような対策ならびに予防法を実施している. それらは顎矯正手術に関して経験の浅い術者でも安全に施行できるような手術術式の改良, 出血量を考慮して行う手術, 輸血後肝炎根絶のための自家血輸血, ある程度強固な骨接合法の応用による顎間固定の術直後の可及的解除, 術後感染防止のための抗生剤の術前投与, 術前矯正治療の徹底などの矯正科医との密接な協力関係, 正確な骨片位置決定のための術中セロファロX線写真撮影などである. 以上の概略について報告した. 質問 京大, 医, 口外 森祐俊 術中心停止の症例がありましたが, 原因がわかれば教えて下さい. 回答 東歯大, 2口外 市ノ川義美 心停止の原因は不明であります. 手術操作には特に問題はなく, 大量出血等はなかった. 術前の検査にも異常なかった. 質問 昭大, 医, 形成 佐藤兼重 術中, (出血多量のための)途中中断した症例を具体的にお教え下さい. 回答 東歯大, 2口外 市ノ川義美 途中撤退というのは, 全上下顎同時移動間の際に, まず下顎から骨切りを開始し, その際に出血量の過多があった場合など下顎の骨切りだけで手術を終了させることであります. 同種血輸血を可及的排除するためであります. 質問 昭和大, 歯, 2口外 木村義孝 偶発骨折の症例は御経験ありませんか. 回答 東歯大, 2口外 市ノ川義美 偶発的骨折症例もあります. スクリュー, プレート, ワイヤーなどで骨接合をはかり, 目的が達せられなかったものはありませんでした. 質問 横浜労災病院, 歯口外 小早川元博 ヘマトーマのコントロール法を具体的に御教示ください. 回答 東歯大, 2口外 市ノ川義美 血腫のコントロールは必要な際にはゾンデを縫合部に挿入して, 徒手的に排除します.
ISSN:0916-7048