検査技術科学

私が医療の分野を志したのは, 16歳の時に母を癌で亡くしたことがきっかけだった. 大学を卒業し, 信大の検査部に就職した. 配属希望を聞かれ「どこでも良いです. でも, 生理検査はちょっと……」と答えたことを今でも覚えている. 最初に配属されたのは血液・一般検査室であった. 教科書で学んだ症例が実際に目の前にあることが日々刺激的だった. 血液形態を学びたくて, 小児科の骨髄標本の勉強会に参加させていただいた. 当時小児科の小宮山淳教授に「検査技師も積極的にベッドサイドに来て下さい」と言われ, カンファレンスにも参加させていただき, 検査データの向こうに患者がいるということを実感した. そこで出...

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Published in信州医学雑誌 Vol. 65; no. 1; p. 60
Main Author 樋口由美子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 信州医学会 10.02.2017
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ISSN0037-3826

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Summary:私が医療の分野を志したのは, 16歳の時に母を癌で亡くしたことがきっかけだった. 大学を卒業し, 信大の検査部に就職した. 配属希望を聞かれ「どこでも良いです. でも, 生理検査はちょっと……」と答えたことを今でも覚えている. 最初に配属されたのは血液・一般検査室であった. 教科書で学んだ症例が実際に目の前にあることが日々刺激的だった. 血液形態を学びたくて, 小児科の骨髄標本の勉強会に参加させていただいた. 当時小児科の小宮山淳教授に「検査技師も積極的にベッドサイドに来て下さい」と言われ, カンファレンスにも参加させていただき, 検査データの向こうに患者がいるということを実感した. そこで出会ったのが夫である. 夫がアメリカに留学するというので, ちゃっかり私も留学した. 血液幹細胞研究の世界的権威の小川真紀雄先生のもとで, 真理を追究するためのものの考え方, 研究の厳しさ, そして楽しさを知った. 帰国後は遺伝子染色体検査室で, 染色体や遺伝子の面から血液疾患を学び, 分子生物学の不思議な世界にはまった. その後, 先端細胞治療センターへ異動して樹状細胞療法に携わった. がん免疫の奥深さと, 癌を克服しようとする医療の進歩に驚嘆した. 検査だけでなく, 細胞治療に関わるということがこれまでと違った魅力的な経験であり, ようやく私が医療を志した原点に帰った気がした. 現在は, 保健学科検査技術科学の教員として, 免疫・血液・一般, そしてなぜか苦手だった生理検査を担当している. 私がこの科目を選んだというよりは, 何かに導かれるように現在に至っている気がする. 「臨床検査」という立場は, 積極的に自分から臨床の場へ出ていき, 自分の出した検査結果がどのように臨床に使われているのかを知らなければならない. また, 思いもよらぬ検査データが出た時に, 「?」という気付きと追求心が重要である. 自分の経験を踏まえ, そのことを学生に伝えていきたいと思っている. (信大大学院平16年卒)
ISSN:0037-3826