1. じん肺症に牛型結核菌(M. bovis)感染症を合併した1例

肺結核症は不治の病として恐れられていたが, 戦後まもなく抗生剤による治療が可能となり1980年代には死亡者数も最盛期の50分の1となった. しかし近年高齢者などの免疫低下患者の増加やAIDS患者に関連して, 肺結核症が再び増加傾向を示している. 私たちは日本国内において感染起因菌として証明されることが非常に稀である牛型結核菌(M. bovis)肺感染症の1例を経験した. 症例は73歳の男性, 生家が酪農業を営んでおり, 幼少時非加熱牛乳を飲用していた. 約40年間砕石業に従事しており, 平成5年からじん肺症として経過観察されてきたが, 平成10年2月より呼吸器症状が増悪し, 5月12日の胸部レ...

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Published inTHE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 50; no. 3; p. 327
Main Authors 井上貴子, 小内亨, 福田玲子, 田谷禎増, 山田衛
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北関東医学会 2000
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Summary:肺結核症は不治の病として恐れられていたが, 戦後まもなく抗生剤による治療が可能となり1980年代には死亡者数も最盛期の50分の1となった. しかし近年高齢者などの免疫低下患者の増加やAIDS患者に関連して, 肺結核症が再び増加傾向を示している. 私たちは日本国内において感染起因菌として証明されることが非常に稀である牛型結核菌(M. bovis)肺感染症の1例を経験した. 症例は73歳の男性, 生家が酪農業を営んでおり, 幼少時非加熱牛乳を飲用していた. 約40年間砕石業に従事しており, 平成5年からじん肺症として経過観察されてきたが, 平成10年2月より呼吸器症状が増悪し, 5月12日の胸部レントゲンにて右上肺野と肺門部陰影の増悪が認められたため, 5月14日当院紹介受診した. 胸部CTにて右上肺野を中心に空洞病変が認められ, 6月14日病変精査加療目的にて入院となった. 入院翌日気管支鏡を施行, TBLBの結果, 空洞部位の組織診断は慢性気管支炎と壊死組織のみでmalignancyは否定された. BALF, 気管支鏡施行後の喀痰より抗酸菌Gaffky2号が確認され, PCRでヒト型結核菌とMACは否定されたため, 退院とし抗酸菌培養の結果を待ち治療する方針とした. 退院約3週間後体調不良にて再入院となったが, 抗酸菌培養の結果牛型結核菌が証明されたため, 結核専門病棟へ転院とした. 抗酸菌のうち結核菌群で人体に感染力を持つのはヒト型と牛型結核菌で, 両者はコロニーの性状, ナイアシンテスト, 硝酸還元試験などにて鑑別される. 牛型結核菌は非加熱牛乳を飲用することで腸管に感染巣をなすと考えられている. 非加熱牛乳を飲用する習慣のある北欧でのデータで, 結核感染症の起因菌は腹部臓器では牛型が約35%であるのに対し, 呼吸器では0.4%のみである. 本邦では非加熱牛乳を飲用する習慣がないため牛型結核菌が問題となることはほとんどない. 本症例も非加熱牛乳から牛型結核菌に感染したものと思われるが, 呼吸器より起因菌が証明されており, 大変稀な症例と思われた.
ISSN:1343-2826