3. 感染を合併して破壊性に浸潤し, 気管支断裂・膿気胸を併発した肺腺癌の一例

症例は68歳頃男性. 咳嗽を主訴に近医を受診し, 右肺炎と診断され治療を受けたが改善せず, 本院内科を受診した. 経口抗生物質の投与により炎症所見は一時改善したが, 右下肺野の陰影は改善しなかった. その後, 症状・炎症所見共に再び悪化したため入院となった. 感染と悪性腫瘍を疑い諸検査が施行され, 喀痰からMRSAが検出されたが, 喀痰細胞診・腫瘍マーカーは陰性であった. これに対し, バンコマイシンを含めた抗生物質の投与が開始された. しかし炎症所見は悪化し, 右肺の陰影は空洞性腫瘤影となり急速に増大した. その後, 右気胸を発症しトロッカーが挿入されたが, 大量の気漏が持続すると共に, 吸...

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Published inThe KITAKANTO Medical Journal Vol. 49; no. 6; p. 482
Main Authors 稲毛芳永, 山部克己, 藤井裕介, 福田玲子, 田谷禎増, 山田衛, 吉田カツ江
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北関東医学会 1999
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Summary:症例は68歳頃男性. 咳嗽を主訴に近医を受診し, 右肺炎と診断され治療を受けたが改善せず, 本院内科を受診した. 経口抗生物質の投与により炎症所見は一時改善したが, 右下肺野の陰影は改善しなかった. その後, 症状・炎症所見共に再び悪化したため入院となった. 感染と悪性腫瘍を疑い諸検査が施行され, 喀痰からMRSAが検出されたが, 喀痰細胞診・腫瘍マーカーは陰性であった. これに対し, バンコマイシンを含めた抗生物質の投与が開始された. しかし炎症所見は悪化し, 右肺の陰影は空洞性腫瘤影となり急速に増大した. その後, 右気胸を発症しトロッカーが挿入されたが, 大量の気漏が持続すると共に, 吸引性肺炎を併発し呼吸不全が進行した. このため保存的治療の継続は困難と判断し, 手術を施行した. 開胸すると, 右肺S6に膿瘍を認め, これが胸腔に穿破して右胸腔は膿胸の状態であった. さらに右下葉支は中葉枝との分岐部直下で断裂し, 膿瘍腔と交通した状態であった. これに対し, 右肺中下葉切除と有茎肋間筋弁による断端被覆を行い, さらに胸郭成形術を加えた. 切除標本の病理検査の結果, 膿瘍壁及びその周囲から腺癌組織が確認され, 右肺癌と診断した. 術後は, 膿胸の再発はなく, 遷延する呼吸不全に対し人工呼吸管理を行い, 次第に離脱を進めていた. しかし, 胸骨転移巣が発見され, 急速に増大するに伴い全身状態が悪化. さらにMRSA肺炎を併発して死亡した. 本症例は, 比較的中枢に発生した腺癌が浸潤性に増殖する過程で下葉支を破壊することによって気道と交通し, さらに感染の合併や腫瘍の壊死なども加わり空洞性腫瘤を形成して急速に増大したものと考えられた. 調べ得た範囲において, これまでにこの様な報告はなく, 比較的稀な症例と考えられた.
ISSN:1343-2826