1. 蛍光標識二次元電気泳動を用いたピストン脱アセチル化酵素阻害剤の感受性に関わる分子の探索

ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は, 近年種々の悪性腫瘍に対する治療薬として研究が進められている. 多くの臨床試験が進行しているが, 他の悪性腫瘍に先駆けて難治性T細胞リンパ腫(CTCL)の治療薬としてHDAC阻害剤の1種であるvorinostatがFDAによって認可された. 本邦でも同剤のCTCLに対する治験が進行中である. しかし, その効果には細胞間, 個体間によってばらつきがあり, 効果予測因子には不明な点が多い. HDAC阻害剤に対する感受性を予測するタンパク質を同定するために, HDAC阻害剤に対する感受性が異なる細胞のタンパク質の発現プロファイルを蛍光標識二次元電気泳動...

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Published in山口医学 Vol. 60; no. 4; p. 143
Main Authors 藤井一恭, 池田佳寿子, 竹島千夏, 鈴木規弘, 山本剛伸, 濱田利久, 近藤格, 岩月啓氏
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 山口大学医学会 2011
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ISSN0513-1731

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Summary:ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は, 近年種々の悪性腫瘍に対する治療薬として研究が進められている. 多くの臨床試験が進行しているが, 他の悪性腫瘍に先駆けて難治性T細胞リンパ腫(CTCL)の治療薬としてHDAC阻害剤の1種であるvorinostatがFDAによって認可された. 本邦でも同剤のCTCLに対する治験が進行中である. しかし, その効果には細胞間, 個体間によってばらつきがあり, 効果予測因子には不明な点が多い. HDAC阻害剤に対する感受性を予測するタンパク質を同定するために, HDAC阻害剤に対する感受性が異なる細胞のタンパク質の発現プロファイルを蛍光標識二次元電気泳動のデータを用いて比較した. 33株のリンパ球系悪性腫瘍の細胞株において, 代表的なHDAC阻害剤であるバルプロ酸に対する50%阻害濃度(IC50)を測定したところ, 72時間刺激後のIC50は0.2mMから6.0mMで, 平均は1.8mMであった. IC50値と各々の細胞株の発現プロファイルを比較すると, データベース上の389タンパク質スポットのうち20スポットの濃度がIC50と相関関係があった(Spearmanの順位相関係数rs>0.4). このうち高感受性群(IC50がバルプロ酸の血中至適濃度である0.72mM以下の細胞株)と不応群(IC50が3.0mM以上の細胞株)との間で濃度の平均値に2倍以上の差を認めるものとして, 4スポット3タンパク質を, 1.5倍以上2倍未満の差を認める物として6スポット5タンパク質を同定した. これらのタンパク質はこれまでにHDAC阻害剤との関連が指摘されておらず, 新たなHDAC阻害剤の感受性因子となり得ると考えた. またこれらの分子にはアポトーシスや細胞増殖などに関わる分子が含まれており, HDAC阻害剤に対する治療抵抗性のメカニズムにも関与している可能性も示唆された.
ISSN:0513-1731