A-3群:幼児・学童への一貫援助「発達遅滞」

演題8(坂井ら)は, 無発語で知的障害をもつ7歳児へのVOCA導入に伴う変化について報告した. この児童は, 3年間にわたってマカトンサインを導入されていたが, 7歳時点での状況をインリアルの母子コミュニケーション評価に基づいて検討したところ, 手の動きが未分化でサインが不明瞭なために確実に伝わらないことがみられ, VOCAを用いることが有用と判断されたものである. その結果, サインではみられなかった語彙や4語連鎖の出現などの変化に加え, 家族間での活発なコミュニケーションが生ずるなどの変化がみられた. 子どもの手段運用能力, コミュニケーションニーズを的確にチェックし, 適切な手段導入がな...

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Published in聴能言語学研究 Vol. 19; no. 3; pp. 218 - 219
Main Author 荻野美佐子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本聴能言語学会 2002
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ISSN0912-8204

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Summary:演題8(坂井ら)は, 無発語で知的障害をもつ7歳児へのVOCA導入に伴う変化について報告した. この児童は, 3年間にわたってマカトンサインを導入されていたが, 7歳時点での状況をインリアルの母子コミュニケーション評価に基づいて検討したところ, 手の動きが未分化でサインが不明瞭なために確実に伝わらないことがみられ, VOCAを用いることが有用と判断されたものである. その結果, サインではみられなかった語彙や4語連鎖の出現などの変化に加え, 家族間での活発なコミュニケーションが生ずるなどの変化がみられた. 子どもの手段運用能力, コミュニケーションニーズを的確にチェックし, 適切な手段導入がなされるべきことが報告された. 木村(昭和大学)からは, VOCAとして選択された機器の選択理由と家庭で購入したものかどうかの質問があった. これに対しては, 大学の研究費による購入であること, ただし, 現状では子どものコミュニケーションニーズを十分満たせなくなっており, より多くのシンボルを扱える機種を保護者が購入していることが説明され, 機種の選択については, 子どものコミュニケーションニーズとの関連で今後検討すべき課題であると述べられた. 子どもの状態像に合ったAACの適切な導入は, 今後詳細に検討すべき重要な課題であり, このような研究の蓄積が望まれる. 演題9(水野ら)は, 発達に遅れのある幼児通園施設において, コミュニケーション手段としての絵カード導入に際して, STと他職種(保育士指導員)とがその必要性や利用方法の共有をどのように図るかの提案がなされた. 援助の段階的見通しについて説明すべきこと, 保育スタッフにとって利用しやすい手段を提示すること, 導入の手続きを実演することなどが有用であることが指摘された. 浅田(福岡市西部療育センター)からは, 絵カードをコミュニケーション手段として用いる際に, どのような子どもの能力を基準として考えているかの質問があった. これに対して演者からは, 個別評価時にマッチングがどの程度できるかを確認し, これによってカード導入の適否を考えているとの回答があった. 障害児へのアプローチにおける支援チームとしての連携をどう図るかは今後ますます重要となるであろう. 演題10(西村)は, 自閉症児の長期予後の観点から, 幼児期1児童期の言語コミュニケーションの特徴と適切な指導について, これまでの貴重なデータの蓄積に基づく報告がなされた. 幼児期前期には発達群遅滞群の2群が分けられ, 幼児期後期にはこれに話しことばの有無を軸とした3群が分けられること, 学童期にはこれらが細分化され, 発達群は, アスペルガー障害, LD, ADHDを主症状とする群へ, 遅滞群で話し言葉をもつ者は中軽度知的障害, 前頭葉症候群へ, 遅滞群で話し言葉をもたない者が構音失行タイプ, 言語失認タイプ, 重度最重度知的障害となっていくことが示された. また, 自閉症特有の状況把握他者理解の問題については, 適応技能の教育が有用であり, 幼児期には生活技能の土台形成, 学童期には認知発達促進, 社会的技能の促進などが必要であるとの指摘がなされた. 座長から, 2-3歳での発達群と遅滞群の区別は何に基づくものかとの質問がなされた. これに対し, この区別は機能水準, 特に知的機能水準による区別であり, 発達質問紙に基づく区別であるとの回答であった. さらに座長から, 自閉症児の中核的問題として指摘された意味語用障害に対しては, どのようなアプローチがあるかとの質問に対し, 伝達やり取りの経験の積み重ねが重要と考えるとの指摘があった. 自閉症児の長期予後から考えてもコミュニケーション能力の促進は重要な課題であり, 意味語用障害に焦点を当てたアプローチを具体的に検討することが課題といえるだろう. 3演題ともに, 幼児期児童期におけるコミュニケーション指導の重要性の指摘と, それに対する実践への示唆を大いに含んだ内容であった. 子どもの状態像の把握と長期的な見通しの中で, 最適な手段の獲得を促進していくことが求められる. このためには, 今回の発表のような研究を積み重ねて, 情報を共有していくことが必要と改めて痛感した.
ISSN:0912-8204