第30回日本コミュニケーション障害学会学術講演会特集:一般演題座長記‐E群:聴覚障害

現在, 聴覚障害の領域では, 補聴に関するものとしてデジタル補聴器とアナログ補聴器あるいは補聴支援機器, 教育に関するものとしてコミュニケーションモダリティあるいは言語手段, その他人工内耳や高齢難聴者のリハビリテーションなどが話題となっているが, この十年, 聴覚障害児の早期発見早期教育の領域で新生児スクリーニング技術の開発により, 新たな課題が論じられるようになった. この新生児聴覚スクリーニング検査は既に全国十数県の行政機関で試行的に行われており, その他一般の産科等で相当数のスクリーニングが行われている現状にある. その中で, 精密検査の実施状況やスクリーニングされた子どものその後のフ...

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Published inコミュニケーション障害学 Vol. 21; no. 3; pp. 224 - 225
Main Author 相樂多惠子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本コミュニケーション障害学会 2004
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ISSN1347-8451

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Summary:現在, 聴覚障害の領域では, 補聴に関するものとしてデジタル補聴器とアナログ補聴器あるいは補聴支援機器, 教育に関するものとしてコミュニケーションモダリティあるいは言語手段, その他人工内耳や高齢難聴者のリハビリテーションなどが話題となっているが, この十年, 聴覚障害児の早期発見早期教育の領域で新生児スクリーニング技術の開発により, 新たな課題が論じられるようになった. この新生児聴覚スクリーニング検査は既に全国十数県の行政機関で試行的に行われており, その他一般の産科等で相当数のスクリーニングが行われている現状にある. その中で, 精密検査の実施状況やスクリーニングされた子どものその後のフォローがどうなっているかなどが大きな問題となっている. 今回本群ではたまたまこの新生児聴覚スクリーニング後の支援体制および早期聴覚診断についての研究が2題発表された. 演題E-1(中島)は, スクリーニングによって難聴を疑われた162症例について, 初期診断をABRで行ったA群74例と, はじめから行動反応聴力検査を行ったB群88例とを聴性反応聴力検査によって経過観察し診断結果について検討している. 結果として新生児期のABR検査は発達の問題や疾病の影響で波形が変化しやすく2歳近くで安定したものが得られたのに対し, 行動反応聴力検査は, 早期から変化が少ないことを示した. 補聴器装用により閾値改善のあった症例の改善理由をたずねた山口(新潟医療福祉大学)に対し, 脳幹の運動ニューロン障害の3例については補聴器を通した音が脳幹に刺激となって改善したと考え, その他の例については明確でないと回答した. 乳突蜂巣の発育不全に関しレントゲン検査をした時期および中耳炎の既往をたずねた佐藤(松山市佐藤耳鼻科)に対しては, ABR実施前にレントゲン検査を実施しており中耳炎の既往はあったものと判断していると回答した. 座長から対象児中のハイリスク児の割合をたずねA群すべてがハイリスク児であるという回答が得られた. この研究でもいわれているとおり, 新生児聴覚スクリーニング後のABRは有効な診断検査ではあるが, 継続検査中の閾値変動や発達障害に対する医学的な診断検査も多く必要とされ, 行動反応聴力検査をも含めた総合的判断が必要といえる. そのようなシステム作りとともに, 行動反応聴力検査をはじめとする児の評価に関わるしっかりとした技術をもった人の養成が必要であろう. 演題E-2(阿利ら)は, 新生児聴覚スクリーニング後の児の行方に関して, 聾学校の支援を受けている者を聾学校と保護者それぞれからアンケートによって調査し支援内容を検討している. 結果, 全国の聾学校幼稚部の約半数が新生児聴覚スクリーニング後の児を受け入れており, 児の主たる流れは, 生後5日目で疑いの告知, 2ヵ月で精査受診, 4ヵ月で診断, 5ヵ月からの教育開始というものであった. 今回の研究対象に難聴幼児通園施設を除いた理由をたずねた塘(千葉市障害者福祉センター)に対し, 聴覚障害幼児の早期支援に関して長い歴史をもつ聾学校が新生児聴覚スクリーニング事業において何らかの役割を担っているはずであるのにあまり検討されていないことが研究の動機であるという回答であった. また, (1)3~7ヵ月未満に発見された新生児の養育環境として聾学校における専門スタッフ(精神科医, 心理士, 保育士等)の配置についてどう思うか, (2)聾学校の現状は手話, 人工内耳等などメディアも多様化している, そういう中での超早期教育についてはどう思うかという筒井(東京都心身障害者福祉センター)に対して, (1)への回答として, 聾学校の教員は精神的な問題への専門家ではないが, 幼, 小, 中, 高が一貫してある聾学校では親に対して聞こえない者のモデルを示すことができるというメリットがあり, それによって役割を果たすことができるとしている. ただし今後そのような専門家の配置について聾学校は考えていく必要があるとしている. (2)に対しては教育相談部で既に15人の受け入れをしている, 筑波大学附属聾学校の例をあげ支援内容を説明し, 親にとって, 聴覚障害や聴覚活用についての説明がなされ, 親の悩みなどを聞く聞き手の存在もあるので支援機関として機能し得ると回答した. 精密検査の技術的開発や通園機関, 聾学校合わせて100くらいの中での支援機関の整備などが今後の課題である.
ISSN:1347-8451