演題9) 健常人における自尊心の神経基盤の探索:機能的MRIによる検討
「目的」:自尊心(self-esteem)とは, 自己の価値感に関連した自己認識の1つであり, われわれの認知活動にも影響を及ぼす. 特に精神医学においては, 患者の心理状態や治療効果とも深い関わりを持つため, 自尊心の程度を客観的に把握することは重要である. 精神科臨床においては, 質問紙を用いた自尊心の評価が一般的であるが, そのような心理活動を支える神経基盤については未解明な部分が多い. 今回, われわれは機能的磁気共鳴撮像法(functional magnetic resonance imaging, 以下fMRI)を用い, 被験者が自尊心に関連した判断を行う時の脳活動について検討を行...
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Published in | 日本医科大学医学会雑誌 Vol. 5; no. 1; p. 68 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本医科大学医学会
2009
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ISSN | 1349-8975 |
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Summary: | 「目的」:自尊心(self-esteem)とは, 自己の価値感に関連した自己認識の1つであり, われわれの認知活動にも影響を及ぼす. 特に精神医学においては, 患者の心理状態や治療効果とも深い関わりを持つため, 自尊心の程度を客観的に把握することは重要である. 精神科臨床においては, 質問紙を用いた自尊心の評価が一般的であるが, そのような心理活動を支える神経基盤については未解明な部分が多い. 今回, われわれは機能的磁気共鳴撮像法(functional magnetic resonance imaging, 以下fMRI)を用い, 被験者が自尊心に関連した判断を行う時の脳活動について検討を行った. 「方法」:20人の健常男女が研究に参加した(平均年齢:29.1±8.3). MR画像の撮影中, 被験者には短文が視覚呈示され(例:最初から間違いとわかっていることをやると, 自尊心が傷つくと私自身は思う), その内容に関する判断を行わせた. 呈示文は, 自尊心の評価尺度の1つであるCSW(Contingencies of Self-worth)スケールに基づいて作成された. これらの文を一方では「自分」にあてはまるかどうかを(S:Self条件), 他方では呈示された文章に当てはまる「他人」が存在するかどうかを(O:Other条件), 1(全くそう思わない)から4(完全にそう思う)までの4段階で評価させた. この2つの条件(S条件とO条件)をランダムなタイミングで呈示し, 被験者がそれぞれについて評価を行う間の脳活動をfMRIによって記録した. MRI装置はPhilips社製Achieva(1.5T), fMRIデータの解析にはStatistical Parametric Mapping 5ソフトウェアを使用した. 「結果」:安静時と比較して, O条件では, 前頭皮質, 基底核そして視覚野において著明な脳活動の亢進がみられた. これに加えS条件では, 内側前頭前皮質(MPFC Brodmann areas 8/9)と前部帯状回(ACC Brodmann areas 24/32)においてさらなる脳活動の増加がみられた. 「結論」:先行研究では, MPFCが「自己参照」(自己に関する情報処理)の過程で重要な役割を担っていることが示唆されている(D'Argembeau et al. 2007). また, ACCが評価対象に「感情価」(自分にとってどれだけ「好き」なものか)を付加する過程を通し, 自己参照過程における補足的な役割を担っていることも示唆されている(Moran et al. 2006). これらの見解を踏まえると, 今回われわれが得た結果については, 自尊心に関する判断に「自己参照」と「価値評価」双方の過程が関わっていることを示している. これらの領域での脳活動を精査することが, 患者のQOLを評価する上で有用である可能性が示唆された. |
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ISSN: | 1349-8975 |