同窓会医学研究助成金受賞記念講演(3)消化管神経内分泌細胞癌の分子病理学的解析および治療に関する研究

消化管原発の腫瘍で内分泌細胞から構成される消化管内分泌腫瘍は, カルチノイド腫瘍と神経内分泌細胞癌とに大きく分類される. 両疾患群は相異なる臨床的性格を示し, カルチノイド腫瘍(Carcinoid tumor)は緩徐に増殖し転移頻度が低いのに対し, 内分泌細胞癌(Endocrine cell carcinoma)は急速に増殖し高率に脈管侵襲と転移を生じる. 内分泌細胞癌の悪性度はきわめて高く, 発見時にはすでに約80%の症例がリンパ節転移, 約60%の症例が肝転移を認め, 1年生存率が約10%と臨床的に予後不良な疾患である. このように, 内分泌細胞癌は内分泌細胞への分化を有するにもかかわらず...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 2; no. 4; p. 241
Main Author 進士誠一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2006
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ISSN1349-8975

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Summary:消化管原発の腫瘍で内分泌細胞から構成される消化管内分泌腫瘍は, カルチノイド腫瘍と神経内分泌細胞癌とに大きく分類される. 両疾患群は相異なる臨床的性格を示し, カルチノイド腫瘍(Carcinoid tumor)は緩徐に増殖し転移頻度が低いのに対し, 内分泌細胞癌(Endocrine cell carcinoma)は急速に増殖し高率に脈管侵襲と転移を生じる. 内分泌細胞癌の悪性度はきわめて高く, 発見時にはすでに約80%の症例がリンパ節転移, 約60%の症例が肝転移を認め, 1年生存率が約10%と臨床的に予後不良な疾患である. このように, 内分泌細胞癌は内分泌細胞への分化を有するにもかかわらず高い増殖能を持つ特殊な癌であり, その構成細胞は腫瘍の進展に重要な役割を果たしていると考えられる. しかし, 現時点では内分泌細胞癌の詳細については解明されておらず, また, 有効な治療方法も確立されていない. 本研究はわれわれの研究グループがヒト神経内分泌細胞癌の培養細胞株を樹立し機能解析を行ったことに始まった, その後, 同細胞をヌードマウスに継代維持し神経内分泌細胞癌の増殖にsomatostatin receptor type2(sst2)が関与しそのアナログであるoctreotideが抗腫瘍効果を有することを示し, さらに細胞外マトリックスの構成要素で小型ロイシンリッチプロテオグリカンの一つであるlumicanが内分泌腫瘍細胞の増殖と関連することを報告してきた. しかし, これまでに樹立された消化管由来の内分泌細胞癌培養細胞株が少なく, この領域の研究はほとんど進んでいなかった. 今回, 新たに2株のヒト直腸および上行結腸由来の内分泌細胞癌培養細胞株の樹立に成功した. また, これらの内分泌細胞癌培養細胞がc-kit遺伝子, c-Kit蛋白を発現することを確認した. 内分泌細胞癌に対し消化管間質系腫瘍(GIST)の分子標的治療薬であるImatinib(Gleevec)が有効となる可能性が考えられ, in vitroにおいて感受性試験を行ったところ細胞増殖抑制効果が認められた. 一方で, 19-23塩基からなり動物では主にmRNAの翻訳制御に関与するとされるmicroRNA(miRNA)が腫瘍形成の点から着目され, 甲状腺乳頭癌や白血病細胞では2種類のmiRNA(miR221, miR222)がc-kit遺伝子の翻訳を制御し細胞増殖を抑制することが報告されている. 現在, われわれは消化管内分泌細胞癌に対するmiR221, miR222の細胞増殖抑制効果を検討しているところである. 近年, 消化器癌では上皮前駆細胞レベルで癌化した後に, 上皮系あるいは内分泌系へ分化する幹細胞(Cancer stem cell)の存在が考えられている. 通常型腺癌の中にも部分的に内分泌細胞を有する症例があるが, その役割に関する検討は進んでいない. 今回, 腺癌の中でもきわめて悪性度の高い低分化腺癌における内分泌細胞の存在意義を免疫組織学的に検討した. 当病院関連二施設において1990年から2003年の14年間に行われた大腸癌初回手術2,204例中, 低分化腺癌と診断された48例(2.2%)を対象に, 手術摘出標本のパラフィン包埋切片をchromograninAおよびsynaptophysin抗体で免疫組織化学染色(LsAB法)を行い, いずれか一方が陽性であった症例を内分泌細胞を含有する群とし, 内分泌細胞を含有しない群と比較した. その結果, 16.7%(8/48)の症例が内分泌細胞を含有し, 臨床病理学的因子では内分泌細胞を含有しない群に比べ有意に肝転移率が高い(p=0.02)ことが認められた. しかし, 予後との関連は認められなかった. この分子生物学的背景を知ることを目的に免疫組織化学的手法とin situ hybridization法を用い血管新生因子であるVascular endothelial growth factor(VEGF)蛋白およびmRNA発現を検討した. また, 微小血管密度を抗CD34抗体を用いた免疫組織化学染色により測定した. この結果, 内分泌細胞を含有する群においてVEGF発現および微小血管密度が高いという結果が得られた. 以上より大腸低分化腺癌における内分泌細胞の存在は, 新生血管を誘導し腫瘍の増殖, 転移に関与する可能性が示唆された. 今後, in vivoにおいて抗血管内皮成長因子(VEGF-A)の中和抗体である血管新生阻害薬Bevacizumab(Avastin)の抗腫瘍効果を解析する予定である.
ISSN:1349-8975