診療教授特別講演(1)慢性肝疾患における肺循環異常と動脈血酸素化

【はじめに】肝硬変は他臓器におよぼす影響が強く, 日常臨床では臓器相関が重要な課題であります. 肝硬変性門脈圧亢進症における循環動態を全身循環, 末梢循環, 内臓循環および肺循環の面から検討して参りましたが, 最近肺循環について興味深い成績が得られましたので, 動脈血酸素化との関係を中心に紹介させていただきます. 【1. 肝硬変の全身血行動態】肝硬変患者では心拍出量増加, 末梢血管抵抗低下および低血圧傾向を特徴とする循環亢進状態を呈し, 循環血漿量は増加しております. しかし, それにも拘らず血漿レニン活性は上昇しており, これはvascular under fillingの状態を示唆します....

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 2; no. 4; p. 231
Main Author 勝田悌実
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2006
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ISSN1349-8975

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Summary:【はじめに】肝硬変は他臓器におよぼす影響が強く, 日常臨床では臓器相関が重要な課題であります. 肝硬変性門脈圧亢進症における循環動態を全身循環, 末梢循環, 内臓循環および肺循環の面から検討して参りましたが, 最近肺循環について興味深い成績が得られましたので, 動脈血酸素化との関係を中心に紹介させていただきます. 【1. 肝硬変の全身血行動態】肝硬変患者では心拍出量増加, 末梢血管抵抗低下および低血圧傾向を特徴とする循環亢進状態を呈し, 循環血漿量は増加しております. しかし, それにも拘らず血漿レニン活性は上昇しており, これはvascular under fillingの状態を示唆します. 一方, 食道静脈瘤サイズの増大に伴って循環亢進状態が強くなります. これは内臓循環亢進による盗血が全身循環亢進状態に大きく寄与しているとするsplanchnic steal hypothesis(Newby et al. 2002)に合致する所見であります. 【2. 門脈圧亢進における前方説と後方説】白色家兎の門脈内に直径100μmのスターチマイクロスフェアを注入し, 肝内門脈を閉塞しますと, 一旦上昇した門脈圧は2週後から4週後にかけて一旦低下し8週後に再上昇します. 8週後の門脈血流量は4週に比べ増加しており, また門脈-大循環シャント量も増加しております. すなわち門脈閉塞直後は後方説, 門脈-大循環シャントの出現後は前方説によって門脈圧亢進が持続するという, セオリー通りの所見が得られ, 本方法による門脈圧亢進症モデルが確立されました. 【3. 肝肺症候群ラットモデル】門脈圧亢進症モデルとして総胆管結紮切除による肝硬変モデル(CBDL)と門脈部分結紮による肝機能障害のない門脈圧亢進症モデル(PVL)を作製し, その血行動態的特性を検討しました. ヒト肝硬変と同様に両モデル共に門脈圧は上昇し, 循環亢進状態を呈しました. CBDLは門脈圧亢進と低酸素血症および肺内血管拡張を呈することから, 肝肺症候群(HPS)の実験モデルとして認められております. われわれの作製したCBDLがHPSのそれらの条件を満たすことを確認しました. 肺内血管拡張がHPSの低酸素血症に重要な役割を担っていると考えられております. 直径15μmの141Ce-マイクロスフェアを用いて測定した肺内シャント率は動脈血酸素分圧と有意の逆相関関係を示しました. 【4. 肝肺症候群の治療】肺内血管拡張をもたらす直接的な原因は, 肺内において過剰産生される一酸化窒素(NO)であると推測されています. われわれはCBDLの肺内でNOの産生が増加していることを確認しました. さらにNO合成酵素阻害薬を投与し低酸素血症が改善されるか否かを検討したところ, 低酸素血症が部分的に改善されました. メチレンブルー(MB)は可溶性guanylate cyclaseを阻害しNOの血管拡張作用を遮断します. MB急性投与はHPS患者の血液ガスを改善させるとの報告があります. しかし, HPSの長期間にわたる治療は臨床的にも実験的にも試みられておりません. そこで, HPSモデルにMBを4週の間連日投与(皮下)し, その慢性効果を検討いたしました. MBの慢性投与により動脈血酸素分圧は部分的に改善されました. しかし, 肺胞-動脈血酸素分圧較差の平均値は不変で, 肺内シャント率もほとんど変化しませんでした. 一方, 肝機能と腎機能に悪影響は認められませんでした. 【おわりに】肺循環は他の臓器と異なり体循環と直列的に連結されているので肺血管床は増加した心拍出量のすべてを受けます. 低圧系の肺循環は体循環と異なる血管緊張の調節機構が存在するものと推測されますが, その全容はいまだ十分に解明されておりません. 肝臓移植候補患者のHPS合併率は高く, HPSの存在は移植成績に悪影響をおよぼすと指摘されています. HPSの病態解明と治療法の確立は今後の重要課題であると考えます.
ISSN:1349-8975