新任教授特別講演(3)骨髄異形成症候群:最新の病態理解から治療まで

【骨髄異形成症候群の概念】骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)は, 血球減少, 造血細胞の形態異常(異形成, dysplasia)および無効造血を主徴とする造血幹細胞由来の腫瘍であり, 高齢者に多い. 無効造血は主にアポトーシスの亢進に由来し, 造血細胞は未分化のまま, あるいは分化後に過剰なアポトーシスを示す. 約半数の例で造血細胞に後天性の核型異常が証明され, clonal diseaseであることが再確認できる. Syndromesと複数型の表記がなされているが, これはMDSが不均一な疾患集団であることによる. 症例間で形態学的特徴, 核型,...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 2; no. 4; p. 227
Main Author 緒方清行
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2006
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ISSN1349-8975

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Summary:【骨髄異形成症候群の概念】骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)は, 血球減少, 造血細胞の形態異常(異形成, dysplasia)および無効造血を主徴とする造血幹細胞由来の腫瘍であり, 高齢者に多い. 無効造血は主にアポトーシスの亢進に由来し, 造血細胞は未分化のまま, あるいは分化後に過剰なアポトーシスを示す. 約半数の例で造血細胞に後天性の核型異常が証明され, clonal diseaseであることが再確認できる. Syndromesと複数型の表記がなされているが, これはMDSが不均一な疾患集団であることによる. 症例間で形態学的特徴, 核型, 臨床経過などの差異が大きく, あるものは無効造血と血球減少が主体で感染で亡くなることが多い. 一方, あるものは芽球などの未熟細胞の増殖が主体で, 早期に急性骨髄性白血病(AML)と区別できない臨床像へ移行し腫瘍死する(MDSの白血病化, 本来のAML[de novo AML]とは特性が異なるが細胞組織学的には区別できない). 【病態解明と治療の進歩】MDSの治療としては, 輸血などの対症療法や, de novo AMLで用いられる化学療法や幹細胞移植が行われてきた. しかし, これらの治療効果は極めて限定されたものであり, MDSの予後は不良である. 一方, 病態生理に関する研究がしだいに進み, 複雑なMDSの病態の一部が明らかになってきた. 造血細胞のアポトーシスの亢進の他に, 免疫細胞による造血抑制, 癌抑制遺伝子のメチル化による不活化, 造血支持細胞(骨髄間質細胞)の機能不全などがMDSの病態に関与するらしい. MDSの各症例で, これらの機序が様々な比重で関与している様である. これらの病態生理に則した新たなMDS治療法, 治療薬が考案され, そのいくつかは臨床治研を経て, 米国, 欧州でMDS治療薬として認可されている(日本では未認可). 例えば, サリトマイドのアナログであるレナリドマイドはアポトーシスの抑制効果や免疫調節作用により, MDSの一部の病型で高い治療効果を示すことが示されており, 2006年に米国FDAより認可を受けている. 【診断上の問題点とフローサイトメトリー診断】MDSの診断は, 芽球の増加や核型異常が検出されれば容易だが, これらを認めない例も多い. その際は造血細胞の異形成を根拠に診断を行うが, 異形成は他の疾患や正常高齢者にも見られることがあり, また異形成の判定は客観性に乏しい面がある. したがってMDSの診断は, 経験ある血液専門医でも難しいことがしばしばである. この点を克服するため, 筆者らはフローサイトメトリーによるMDS診断法を開発した(Ogata et al, Blood 2006). MDSのCD34陽性細胞が独特の性質を持つことを利用した方法である. 2006年7月に欧州, 米国合同のMDS標準化会議が開催された際, 筆者はこの方法を紹介した. この標準化会議が提唱するMDS診断基準が現在作成中であり, フローサイトメトリー診断法も診断基準に加わる予定である(Valent & Bennett, Leuk Res 2007[position paper]).
ISSN:1349-8975