3)B7 familyに属する新規B7-H1分子の機能

緒言:T細胞の十分な活性化のためには, T細胞レセプターが抗原提示細胞(APC)上の抗原ペプチドを認識するだけでなく, APCに発現する補助刺激分子からの補助シグナルが必要となる. 最も良く知られている補助刺激シグナル経路はB7-1(CD80)/B7-2(CD86)-CD28であり, 抗原特異的T細胞の活性化と増殖, 抗アポトーシス蛋白を誘導する. 最近, われわれはB7 familyに属する新規のB7分子群B7-H1, B7-H2, B7-H3, およびB7-H4をクローニングし, それらの機能について報告した. これらB7分子群はそれぞれ異なった機能を持ち, 生体内においてそれぞれの場面で...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 70; no. 6; p. 570
Main Author 田村秀人
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2003
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ISSN1345-4676

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Summary:緒言:T細胞の十分な活性化のためには, T細胞レセプターが抗原提示細胞(APC)上の抗原ペプチドを認識するだけでなく, APCに発現する補助刺激分子からの補助シグナルが必要となる. 最も良く知られている補助刺激シグナル経路はB7-1(CD80)/B7-2(CD86)-CD28であり, 抗原特異的T細胞の活性化と増殖, 抗アポトーシス蛋白を誘導する. 最近, われわれはB7 familyに属する新規のB7分子群B7-H1, B7-H2, B7-H3, およびB7-H4をクローニングし, それらの機能について報告した. これらB7分子群はそれぞれ異なった機能を持ち, 生体内においてそれぞれの場面で適切な免疫応答を誘導するのに重要な役割を果たすと考えられる. 1999年4月に留学した私の研究テーマであったマウスB7-H1のクローニングとその機能について以下に概説する. 構造と発現:B7-H1はB7-1とB7-2とのhomology analysisにより同定された. クローニングしたマウスB7-H1は, ヒトB7-H1と同様にIgV様ドメインとIgC様ドメインを持ち, 290アミノ酸からなると推定されるType I膜蛋白である. ヒトB7-H1と高い相同性(69%)を持つことから, この分子の生体内における重要性が推測される. また, その細胞外ドメインはB7-1, B7-2, およびB7h(B7-H2)と15~20%の相同性を有していた. B7-H1 mRNAは, 心, 肺, 脾, 肝, 骨格筋, 腎などで高度の発現がみられ, またラビットで作製したpolyclonal抗体を用いたflow cytometry解析では, B7-H1はマクロファージおよびB細胞などのAPC上に弱く発現しており, LPSなどで活性化することにより著明な発現増強がみられた. また活性化T細胞上にもB7-H1発現が認められた. 補助刺激機能:B7-H1細胞外ドメインとマウスIgとのfusion蛋白を作製し, B7-H1の機能解析を行った. B7-H1は抗CD3抗体存在下(suboptimal dose)でT細胞増殖を容量依存性に増強した. また, CD28-/- T細胞でも同様な作用を示したことから, B7-H1シグナルはCD28レセプターを介さないと考えられた. さらにB7-H1補助刺激は, CD8+よりCD4+T細胞により強い効果が認められた. サイトカイン産生誘導能に関しては, B7-H1補助刺激によりIFNγ, IL-10, およびGM-CSF産生が増強されたが, IL-2やIL-4の産生は誘導しなかった. 次にマウスP815腫瘍細胞にB7-H1を強制発現させ機能解析に用いた. B7-H1+ P815をallogeneic T細胞とin vitroで共培養したところT細胞増殖が増強されたが, in vitroおよびin vivoいずれの系においても腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導は認めなかった. これらの結果よりB7-H1は, 主にCD4+T細胞の機能を増強していると考えられた. さらにin vivoにおいてB7-H1は, 抗原特異的helper T細胞の増殖およびhelper T細胞依存性IgG2a抗体産生を増強した. 抗腫瘍免疫メカニズム:B7-H1は, 肺癌, 卵巣癌, メラノーマ, 大腸癌などの腫瘍細胞で発現が認められた. 腫瘍細胞上に発現したB7-H1はin vitroにおいて腫瘍特異的CTLのアポトーシスを誘導した. またB7-1陽性P815腫瘍細胞をマウスに投与すると, B7-1補助刺激シグナルによりCTL誘導が増強され腫瘍が拒絶されるのに対して, B7-1/B7-H1共陽性P815腫瘍細胞は拒絶されることなく, マウスは死に至った. これらの結果より, 腫瘍細胞に発現したB7-H1は, 抗腫瘍免疫反応を抑制することが示唆された. 結語:B7-H1はT細胞増殖を補助刺激するとともに, IL-10, IFNγなど特徴的サイトカイン産生を誘導し, ヘルパーT細胞の機能を増強すると考えられた. B7-H1のcounter-receptorとして, 活性化T細胞に発現し抑制型補助シグナルを入れるPD-1が知られているが, 刺激型補助シグナルを入れるレセプターはいまだ同定されていない. また, 腫瘍細胞上に発現するB7-H1が抗腫瘍反応を抑制する可能性があり, B7-H1シグナル遮断による免疫療法など, 臨床への応用も期待される.
ISSN:1345-4676