アポトーシス制御の分子機構と関連疾患

はじめに 人体が健常に維持されるには, 発生, 成長, 維持の過程において細胞の増殖, 生存, 死滅の微妙なバランスがとれていることが必要である. このバランスが崩れる時, 発生における異常や腫瘍形成などの疾病が生じる1~4). 例えば, 癌の多くは癌遺伝子の発現異常によるが, それ単独では細胞増殖を引き起こせない. すなわち, 正常細胞は等しく「自殺」する能力をもち, 癌抑制遺伝子産物p53は癌遺伝子産物の活性を阻害する一方軌道修正のできない細胞を自滅させる5). この抑制機構が傷害を受けてはじめて癌細胞は増殖できる4,6). 組織における細胞の生存には近接する細胞からのシグナルや細胞間物質...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 63; no. 2; pp. 95 - 105
Main Authors 太田成男, 猪原直弘
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 1996
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ISSN1345-4676

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Summary:はじめに 人体が健常に維持されるには, 発生, 成長, 維持の過程において細胞の増殖, 生存, 死滅の微妙なバランスがとれていることが必要である. このバランスが崩れる時, 発生における異常や腫瘍形成などの疾病が生じる1~4). 例えば, 癌の多くは癌遺伝子の発現異常によるが, それ単独では細胞増殖を引き起こせない. すなわち, 正常細胞は等しく「自殺」する能力をもち, 癌抑制遺伝子産物p53は癌遺伝子産物の活性を阻害する一方軌道修正のできない細胞を自滅させる5). この抑制機構が傷害を受けてはじめて癌細胞は増殖できる4,6). 組織における細胞の生存には近接する細胞からのシグナルや細胞間物質などが必要であり, 正常細胞ではこれらを欠くと自らのプログラムに従い死滅する. 癌細胞ではこうしたシグナル応答性を失ってはじめて本来存在する部位を離れて浸潤, 転移することができるようになる. このように細胞増殖と細胞死は密接に関連しながら厳密に調節されている.
ISSN:1345-4676