ラット末梢血単球の炎症性メディエーター産生に対するエナメルタンパクの影響

[目的]新しい歯周組織再生誘導材料としてエナメルタンパク(EMP)が臨床応用されつつある. EMPを臨床応用した場合, 歯周組織再生が促進されるばかりでなく, 手術部位における発赤, 腫脹などの炎症反応が抑制され, 良好な創傷治癒が起こることが知られている. しかしながら, EMPによる炎症反応の抑制に関する詳細な作用機序については未だ報告されていない. そこで, 本研究では, 単球マクロファージ系細胞の機能に及ぼすEMPの影響を検討した. [材料および方法]Lewis系雄性ラット8週齢(体重約200g)から末梢血を採取し, ナイコプレップ1. 068を用いた比重遠心法により単核球分画を回収し...

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Published in日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-2; p. 114
Main Authors 佐藤淳, 宮内睦美, 北川尚嗣, 平岡雅恵, 齊藤彰久, 小川郁子, 高田隆
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本歯周病学会 2003
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Summary:[目的]新しい歯周組織再生誘導材料としてエナメルタンパク(EMP)が臨床応用されつつある. EMPを臨床応用した場合, 歯周組織再生が促進されるばかりでなく, 手術部位における発赤, 腫脹などの炎症反応が抑制され, 良好な創傷治癒が起こることが知られている. しかしながら, EMPによる炎症反応の抑制に関する詳細な作用機序については未だ報告されていない. そこで, 本研究では, 単球マクロファージ系細胞の機能に及ぼすEMPの影響を検討した. [材料および方法]Lewis系雄性ラット8週齢(体重約200g)から末梢血を採取し, ナイコプレップ1. 068を用いた比重遠心法により単核球分画を回収した. 単核球浮遊液をRPMI中に2×10 5cells/mlの濃度で調整し, 牛胎児血清をコートした24well plateに播種した. 24時間後, plate底面に付着した細胞のみを末梢血単球として用いた. EMP(EMDOGAIN(R), 生化学工業)を0, 50, 100, 200μg/mlの濃度で添加し, Escherichia ooli(E. coli)あるいはActinobacillus actinomycetemcomitans(A. a)由来のLPS 1ng/mlで刺激を行った. LPS刺激6, 18, 24時間後に培養上清を回収し, ELISA法により6, 18時間後の培養上清でTNF-αの18, 24時間後の培養上清でProstaglandin E2(PGE2)の産生量を計測した. [結果]EMPはいずれの観察期間においても濃度依存的にE. coli-LPSや, A. a-LPSの刺激によるTNF-αの産生を抑制した(p<0.05). 一方LPS刺激によるPGE2の産生量は18時間, 24時間ともにコントロール群に比較してEMPを添加した群の方が濃度依存的に促進した(p<0.05). [考察](1)EMP添加群では, LPS刺激によるTNF-αの産生量が低下していた. TNF-αは炎症の開始と増悪に中心的な役割を果たすサイトカインである. 手術創傷部位においてはTNF-αにより誘導される過剰な炎症反応がEMPにより抑制されると考えられる. (2)PGE2の産生量はEMP添加により増加していた. 一般的にPGE2は, 血管透過性亢進, 骨吸収作用などの起炎的作用がよく知られているが, 単球マクロファージ系細胞に対しては, EP2, EP4受容体を介して, LPSによるTNF-αやIL-8などのケモカイン産生の抑制などの抗炎症的な作用のみを示す(Biochem Pharmcol, vol. 61, 1153, J Biol Chem, vol. 277, 44147). EMPは単球によるPGE2産生を促し, 起炎性サイトカイン, ケモカインの産生量を低下させることにより, 抗炎症的作用を発揮するものと推察された. [結論]EMPは, 局所での単球からの炎症性メディエーターの産生量を調整することにより, 外科的侵襲による過剰な炎症反応を抑制し, 創傷治癒を促している可能性が示唆された. [謝辞]本研究において, Actinobacillus actinomycetemcomitans LPSを供与していただきました九州歯科大学口腔微生物学講座, 西原達次教授に対し感謝の意を表します.
ISSN:0385-0110