切迫早産及び早産妊婦における血清サイトカインレベルと全身及び歯周組織状態の検討

【目的】早産(妊娠24週以降37週未満での出産(Pre-term Birth:PB))に至る可能性のある状態として, 切迫早産(Threatened premature labor(TPL))が挙げられる. TPLとは, 子宮収縮や頸管熟化などの早産の始まりを示唆する臨床症状が見られる状態である. 歯周組織の健康状態の悪化が, 早産及び低体重児出産と関連があることが, 1996年に米国のOffenbacherらにより初めて報告された. 本研究は, TPL及びPB妊婦における血清サイトカインレベル, 歯肉縁下プラークの細菌学的組成, 全身及び歯周組織状態の検討を行うことを目的とした. 【材料およ...

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Published in日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-2; p. 97
Main Authors 長谷川梢, 古市保志, 下津昭洋, 川畑由紀代, 中島結実子, 和泉雄一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本歯周病学会 2003
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ISSN0385-0110

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Summary:【目的】早産(妊娠24週以降37週未満での出産(Pre-term Birth:PB))に至る可能性のある状態として, 切迫早産(Threatened premature labor(TPL))が挙げられる. TPLとは, 子宮収縮や頸管熟化などの早産の始まりを示唆する臨床症状が見られる状態である. 歯周組織の健康状態の悪化が, 早産及び低体重児出産と関連があることが, 1996年に米国のOffenbacherらにより初めて報告された. 本研究は, TPL及びPB妊婦における血清サイトカインレベル, 歯肉縁下プラークの細菌学的組成, 全身及び歯周組織状態の検討を行うことを目的とした. 【材料および方法】鹿児島大学医学部附属病院産科婦人科, 医療法人愛育会愛育病院に通院中の妊婦, また, 鹿児島市立病院産婦人科にTPLのため入院中だが, 全身的な他の原因が特定できない妊婦, を対象に歯科健診を行った. 診査内容として, プラーク指数(PII), 歯肉炎指数(GI), プロービングデプス(PPD), プロービングアタッチメントレベル(PAL), プロービング時の出血(BOP), の計測を行った. また, 末梢血と歯肉縁下プラークを採取した. 血清中のサイトカインレベル(IL-6, IL-8, TNF-α, IL-1β)はEUSA法により, 歯周病原性細菌(Actinobacillus actinomycetemcomitans(Aa), Porphyromonas gingivalis(Pg), Prevotella intermedia(Pi), and Bacteroides forythus(Bf))はPCR法により定量分析した. 出産後, 出産日数, 新生児の体重, 妊娠期間中の全身状態(年齢, 妊娠前の身長, 体重, 経産の有無, 早期低体重児出産経験の有無, 喫煙経験の有無, 血圧, WBC, 膣培養での細菌検出の有無, 抗生剤, あるいは子宮収縮抑制剤などの投薬の有無, 等)の調査を行った. 結果の比較は, (i)TPLとnon-TPLの2群間, および(ii)TPL-PB(切迫早産で早産), TPL-TB(切迫早産だが早産でない), non-TPL-PB, non-TPL-TBの4群間, において行った. また, 歯周パラメーター, 血清サイトカインレベル及び出産日数との相関も分析した. 【結果】現在まで88名(平均年齢29. 7歳)が歯科健診を受診し, 出産を終えた. 88名中, 40名がTPL, 18名がPBであった. また, PB全員がTPLであった. 各群間の比較において, TPL群ではnon-TPL群と比べて, 喫煙経験者, 抗生剤及び子宮収縮抑制剤投与者の割合と, PPD≧3mmの%, BOP, PII, GI, 血清IL-8, IL-1βレベル, の平均値が, 有意に高い値を示していた. また, TPL-PB群ではTPL-TB群と比較して, Bfの%, 血清中IL-8, IL-lβレベルが, 有意に高い値を示した. 相関分析では, PPD≧3mmの%と血清中IL-8レベルの間, BOP, PlI, GIと血清中IL-8, IL-1βレベルとの間に有意な正の相関が, また, 出産日数とPPD≧3mmの%, BOP, PII, GI, 血清中のIL-8, IL-1βレベルとの間に有意な負の相関が認められた. 【結論及び考察】今回の結果から, 歯周組織健康状態の悪化と血清中のIL-8, IL-1βレベルの上昇が, 切迫早産と関係していること, またBfの占める割合および血清中のIL-8, IL-1βレベルの上昇が早産と関連すること, が明らかにされた. 歯周組織健康状態の悪化に伴う血清IL-8, IL-1βレベルの上昇が出産日数の短縮に関与し, それが切迫早産および早産発現のメカニズムの1つとして考えられることが示唆された. 今後, 口腔内や子宮経管などの局所におけるサイトカイン等についても検討を加え, 歯周病と早産との関連性についてそのメカニズムにさらなる考察を加えていく必要がある. 学部外協力者;吉永光裕(鹿児島大学医学部附属病院産科婦人科), 中村雅弘(医療法人愛育会愛育病院), 上糖正人, 波多江正紀(鹿児島市立病院産婦人科)
ISSN:0385-0110