フェニトイン誘発性歯肉増殖症の歯周管理-術後3年経過の1症例
薬物副作用による歯肉増殖症について, 1939年にKimballらにより抗てんかん薬フェニトインによる症例が報告され, 以来免疫抑制剤サイクロスポリン, Ca拮抗剤ニフェジピンによる症例が数多く報告されてきた. 今回, 私たちは術後の再発傾向をSPTの強化により最小限にとどめた1症例について報告する. 2. 初診 患者:12歳, 女性 初診日:1989年1月8日 主訴:上下顎前歯部の歯肉増殖 既往歴:生後6ヶ月頃より痙攣, 発作を認め, 以後熱性痙攣が繰り返し起こったため, 小児科において抗痙攣剤(アラビアチンソーダ(R))の投与を受け, 発作のコントロールが成されていた. 現病歴:抗痙攣剤服...
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Published in | 日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-1; p. 177 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本歯周病学会
2003
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ISSN | 0385-0110 |
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Summary: | 薬物副作用による歯肉増殖症について, 1939年にKimballらにより抗てんかん薬フェニトインによる症例が報告され, 以来免疫抑制剤サイクロスポリン, Ca拮抗剤ニフェジピンによる症例が数多く報告されてきた. 今回, 私たちは術後の再発傾向をSPTの強化により最小限にとどめた1症例について報告する. 2. 初診 患者:12歳, 女性 初診日:1989年1月8日 主訴:上下顎前歯部の歯肉増殖 既往歴:生後6ヶ月頃より痙攣, 発作を認め, 以後熱性痙攣が繰り返し起こったため, 小児科において抗痙攣剤(アラビアチンソーダ(R))の投与を受け, 発作のコントロールが成されていた. 現病歴:抗痙攣剤服用中の10歳頃より歯肉の増殖が目立ち始めたが, さしたる自覚症状がなかったため放置していた. しかしながら, その後歯肉出血, 接触痛を伴った歯肉増殖が著明となり, 本学付属病院歯周病科を訪れた. なお, 抗痙攣剤による発作のコントロールが成されていたが, 精神的緊張が高まれば, 時として発作を起こすことがあり減薬できなかった. 3. 診査, 検査所見(1)口腔内所見:上下顎前歯部歯肉の腫脹, 発赤が特に著明で, 部分的に線維性に富んだ歯肉の増殖に伴う歯冠部の被覆もみられた. (2)X線所見:全顎にわたり歯槽骨の吸収は認められなかった. (3)病理組織所見:切除された増殖歯肉の上皮は, 有棘層の肥厚ならびに粘膜固有層に突出した上皮脚がみられた. さらに, 粘膜固有層では線維芽細胞の増殖, コラーゲン等の細胞外基質の蓄積, 毛細血管の増加, 形質細胞やリンパ球などの炎症性細胞浸潤が認められた. 4. 診断名 フェニトイン(誘発性)歯肉増殖症5. 治療計画 本症は本来が非炎症性の歯肉増殖であるが, 炎症が加味された複合性歯肉増殖の状態で来院した. そのため, 徹底的なプラークコントロール. SRP後, 歯肉切除を行い, SPTにより歯肉増殖のコントロールを試みる. 6. 治療経過(1)歯周基本治療:プラークコントロール(スクラビング, バス法), SRP(2)再評価(3)歯周外科手術:歯肉切除(4)再評価(5)SPT(6)再評価, 再発傾向(7)SPTの強化, 再評価7. 考察, まとめ 本症例においては, 切除組織の病理組織所見からも, 線維芽細胞の発達した基質形成により, 歯肉は線維性に富み, 慢性の炎症性細胞浸潤を伴っており, 通常のケースより基本治療の効果が得られないことがわかった. さらに, 発作のコントロールのため減薬できないことから, 術後のプラークコントロールが非常に重要であった. このことは患者のみならず家族を含めたSPT, プラークコントロールに対する協力と実践が再発防止に不可欠であることを意味している. |
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ISSN: | 0385-0110 |