サイクロスポリンの抗angiogenic効果はJNKの活性低下を介したVEGFの産生抑制による
【目的】サイクロスポリンは, T細胞の増殖を抑制することで臓器移植後の拒絶反応を防止するために広く用いられている免疫抑希脚1である. サイクロスポリンにはこのT細胞の増殖抑制効果とは別に, 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生抑制作用を介した抗angiogenic効果があることもin vitroで報告されており, 炎症性細胞浸潤を抑えることで拒絶反応を防ぐ作用もあるのではないかと考えられている. また, その効果は歯肉組織の線維化の一因とも考えられている. そこで, サイクロスポリンの抗angiogenic効果の機序を細胞内勅敷伝達系に焦点を当てて検討した. 【材料および方法】1. 細胞およ...
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Published in | 日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-1; p. 140 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本歯周病学会
2003
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ISSN | 0385-0110 |
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Summary: | 【目的】サイクロスポリンは, T細胞の増殖を抑制することで臓器移植後の拒絶反応を防止するために広く用いられている免疫抑希脚1である. サイクロスポリンにはこのT細胞の増殖抑制効果とは別に, 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生抑制作用を介した抗angiogenic効果があることもin vitroで報告されており, 炎症性細胞浸潤を抑えることで拒絶反応を防ぐ作用もあるのではないかと考えられている. また, その効果は歯肉組織の線維化の一因とも考えられている. そこで, サイクロスポリンの抗angiogenic効果の機序を細胞内勅敷伝達系に焦点を当てて検討した. 【材料および方法】1. 細胞および培養:細胞は, 全身疾患を有さない患者の臨床的に健康な辺縁歯肉を智歯抜歯時に採取し, 分離, 培養した紡錘状を呈する細胞をヒト歯肉線維芽細胞として用いた. 培養は, ウシ胎児血清を10%の割合で含むDMEM培地を用い, 37℃, 5%炭酸ガス存在下で行った. 研究には, 4-6代継代培養した細胞を実験に用いた. 2. 刺激因子:刺激因子としてrhIL-6およびrhsIL-6R(R&D)を用いた. 刺激濃度はそれぞれ50n/mlとした. 3. サイクロスポリン:IL6/sIL6R刺激の30分前からサイクロスポリン(Sigma)による前処理を行った. 濃度は0, 200, 1000ng/mlとした. 4. JNK阻害剤:IL-6/sIL-6R刺激の60分前からJNK阻害剤(SP600125)による前処理を行った. 濃度は0, 5, 50μMとした. 5. VEGF産生量の測定:培養上清中のVEGF量を, 市販のELISAキット(R&D)を用いて判定した. すなわち, 上記の条件で培養したヒト歯肉線維芽細胞にサイクロスポリンおよびIL-6/sIL-6Rを添加し, 0-48時間培養した後の培養上清中に含まれるVEGF濃度を損淀した. なお, VEGF産生濃度の有意差検定は, Student's-ttestを用いて行った. 6. JNK活性化(細胞質タンパクのリン酸化)の評価:サイクロスポリンによる処理およびIL-6/sIL-6R刺激後のJNKの活性化を, 免疫ブロット法を用いて評価した. すなわち, 上記の条件で培養した細胞を細胞溶解液で溶解, 回収した後, SDS-PAGEにてタンパクを展開し, PVDF膜に電気的に転写した. リン酸化したタンパクを, 抗リン酸化抗体(anti-phospho-JNK, anti-phospho-P38 MAPK, anti-phospho-p44/42MAPK)と反応させ, ECL蛍光キット(Amersham)を用いて検出した. 【結果】1. IL-6/sIL-6R刺激によって, 歯肉線維芽細胞からのVEGF産生量は時間依存性に増加した. 2. サイクロスポリンを添加することによって, 歯肉線維芽細胞からのVEGF産生量は有意に減少した. この減少量は, サイクロスポリンの濃度に依存的であった. 3. JNK inhibitor(SP600125)を添加すると, サイクロスポリンを添加した場合と同様に, 歯肉線維芽細胞からのVEGF産生量は有意に減少した. この減少量は, JNK inhibitor(SP600125)の濃度に依存的であった. 4. IL-6/sIL-6R刺激によって, JNKとp44/42MAPKのリン酸化が見られたがP38MAPKのリン酸化は見られなかった. 5. サイクロスポリンを添加すると, IL-6/sIL-6R刺激によって見られたJNKのリン酸化は抑制されたがP44/42MAPKのリン酸化には変化が見られなかった. 【考察】サイクロスポリンの添加によって, JNK阻害剤(SP600125)を添加した場合と同様にVEGF産生量は有意に減少した. また, IL-6/sIL-6R刺激によって見られたJNKのリン酸化が抑制された. このことから, サイクロスポリンの抗angiogenic効果は, JNKの活性抵下を介したVEGFの産生抑制によるものと考えられた. |
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ISSN: | 0385-0110 |