サイクロスポリンA投与ラットの骨リモデリングにおけるオステオネクチンの発現変化
【目的】免疫抑制剤サイクロスポリンA(CsA)の副作用として, 口腔内では歯肉増殖症が知られているが, 骨代謝に及ぼす影響としてCsAが骨吸収を引き起こすことが報告されている. 我々はCsA誘発性歯肉増殖症ラットモデルにおいて, 脛骨に骨吸収が認められることを組織学的検索によって明らかにした(第44回秋季歯周病学会). 今回, CsAによる骨吸収の作用機序の一端を明らかにするために, 同モデルを用いて高密度cDNAマイクロアレイを使用し, オステオネクチン, オステオカルシンなど骨代謝関連蛋白, その他各種の遺伝子について網羅的遺伝子発現解析を試みた. 【材料と方法】15日齢雄性フィッシャー系...
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Published in | 日本歯周病学会会誌 Vol. 45; no. suppl-1; p. 119 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本歯周病学会
2003
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Online Access | Get full text |
ISSN | 0385-0110 |
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Summary: | 【目的】免疫抑制剤サイクロスポリンA(CsA)の副作用として, 口腔内では歯肉増殖症が知られているが, 骨代謝に及ぼす影響としてCsAが骨吸収を引き起こすことが報告されている. 我々はCsA誘発性歯肉増殖症ラットモデルにおいて, 脛骨に骨吸収が認められることを組織学的検索によって明らかにした(第44回秋季歯周病学会). 今回, CsAによる骨吸収の作用機序の一端を明らかにするために, 同モデルを用いて高密度cDNAマイクロアレイを使用し, オステオネクチン, オステオカルシンなど骨代謝関連蛋白, その他各種の遺伝子について網羅的遺伝子発現解析を試みた. 【材料と方法】15日齢雄性フィッシャー系ラットを用い, CsA投与群ではCsAを含む粉末飼料diet2000を, CsA非投与群ではdiet2000のみを食餌として与えた. なお, 最初の10日間はCsA50mg/kg diet, 以後の飼育期間をCsA200mg/kg dietとした. 飼育開始後8, 16, 30日目に脛骨あるいは大腿骨を採取し, 以下の検索を行った. 1)組織学的検索:μCTを用いて, 脛骨近心部の断層撮影像から立体画像を構築し, 3次元的に形態計測を行った. また, 同部の薄切切片を作成し, 酒石酸低抗性フォスファターゼ(TRAP)染色を行いTRAP陽性破骨細胞数, さらに骨芽細胞数についても測定を行った. 2)オステオカルシンの定量:高回転型骨吸収のマーカーであるオステオカルシンを定量するために, 飼育開始8, 16日目の血中オステオカルシン濃度をELISA法(アマシャム社)にて測定した. 3)遺伝子発現解析:飼育開始16日目に両群から大腿骨骨髄を採取し, total RNAを分離した. 通法に従いcDNAを合成後, 高密度cDNAマイクロアレイ(アジレント社)を用いて骨代言身欄連蛋白, その他各種の遺伝子発現の変動を検索した. 【結果】1)μCT解析の結果, CsA8日投与群では脛骨近心二次海綿骨の骨量に差を認めなかったが, 16日投与群では有意に同部の骨吸収が進行しており, 30日投与群では大部分が吸収されていた. 組織学的検索では, CsA8日投与群では同部海綿骨量, TRAP陽性破骨細胞数, 骨芽細胞数に差は認められなかったが, 16日では骨量の減少を認めるとともにTRAP陽性破骨細胞数, 骨芽細胞数が有意に増加していた. 2)血中オステオカルシン濃度は, CsA8日投与群で有意に上昇していたが, 16日投与群では8日投与群ほどの上昇は認められなかった. 3)大腿骨骨髄由来RNAを用いたcDNAマイクロアレイの結果, CsA16日投与群でオステオネクチンの発現が著しく増加しており, その蛍光強度は5.1倍を示した. 同時に測定したカラースワップでは0.3倍であった. なお, オステオカルシンはその蛍光強度が微弱で比較検討できなかった. 【考察】CsAの副作用としてヒトで高回転型の骨吸収が知られている. 今回, CsA誘発性歯肉増殖症ラットモデルにおいて, CsA投与16日で脛骨近心二次海綿骨での骨吸収が認められ, 30日で著明となることが確認された. CsA投与8日目で血中オステオカルシンの上昇, さらに16日目でTRAP陽性破骨細胞数および骨芽細胞数の増加が認められたことから, この増殖症モデルにおける骨吸収もヒトと同様に高回転型骨吸収と考えられる. この骨吸収モデルにおいてオステオネクチンの関与が強く示唆されたが, オステオネクチンの生理作用として細胞外マトリックス産生低下や細胞外マトリックスプロテアーゼ産生亢進が知られており, これらにより骨吸収が惹起される可能性が考えられる. 【結論】CsA誘発性歯肉増殖症モデルにおいては高回転型骨吸収が認められ, その骨吸収過程にオステオネクチンが関与する可能性が示唆された. (会員外研究協力者)篠原康雄(徳島大学ゲノム機能研究センター遺伝子発現分野) |
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ISSN: | 0385-0110 |