7.カイコ(Bombyx mori)の成長に伴って発現するタンパク質の電気泳動と質量分析による解析
【目的】カイコ(Bombys mori)は古くから産業動物として使用され, 近年はその全ゲノム解析が日中の協力のもとに進められている. また, 形質転換技術も確立し, それを用いたインターフェロン等の商業生産が行われている. 大部分の有害昆虫はカイコと同じ鱗翅目に属することから, 害虫駆除を目的とした研究のためのモデル昆虫としても注目されている. 本研究は, ゲノム研究が進められつつあるカイコについて, タンパク質レベルでの知見を集積する為に, 成長等に伴って発現するタンパク質を網羅的に調べることを目的とした. 【材料および方法】カイコ(品種, 大造)を桑で成育させ, 各成長段階に従って解剖し...
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Published in | 生物物理化学 Vol. 48; no. suppl; p. 24 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本電気泳動学会
2004
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ISSN | 0031-9082 |
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Summary: | 【目的】カイコ(Bombys mori)は古くから産業動物として使用され, 近年はその全ゲノム解析が日中の協力のもとに進められている. また, 形質転換技術も確立し, それを用いたインターフェロン等の商業生産が行われている. 大部分の有害昆虫はカイコと同じ鱗翅目に属することから, 害虫駆除を目的とした研究のためのモデル昆虫としても注目されている. 本研究は, ゲノム研究が進められつつあるカイコについて, タンパク質レベルでの知見を集積する為に, 成長等に伴って発現するタンパク質を網羅的に調べることを目的とした. 【材料および方法】カイコ(品種, 大造)を桑で成育させ, 各成長段階に従って解剖し, 主要組織(中腸, 脂肪体, マルピーギ体, 中部絹糸腺, 後部絹糸腺, 卵巣, 精巣, 体液)を採取した. 粗タンパク質をリシス緩衝液によって抽出し, 二次元電気泳動に用いた. 泳動終了後, クマシー染色し, セロハンに挟むことによって風乾した. 主要なスポットを200~300個程度切り取り, 各ゲル断片はアルキル化後, トリプシン処理し, ペプチドを抽出した. オンライン化されたマイクロHPLC(AMR, Magic)-イオントラップ型質量分析装置(サーモクエスト, LCQ-Deca)によって分析した. 測定データは, SequestおよびMascotのサーチエンジンによってタンパク質を同定した. 検索については, NCBIから得たショウジョウバエのゲノム情報およびカイコESTをアミノ酸配列に翻訳したものなどを用いた. 【結果および考察】解析に先立って, 約2万のカイコESTを全て6通りのアミノ酸配列に翻訳した. 読み間違え等によるストップコドンの出現等によってどれが正しいフレームか決定できなかったので, それら全てをタンパク質検索の対象とした. カイコとショウジョウバエは系統的に大きく離れているため, ショウジョウバエのゲノム情報ではタンパク質を同定できなかったものについては, カイコEST情報や他の動物のアミノ酸配列情報を同定に用いた. 現状では, カイコゲノム情報を直接使用することはまだできないため, タンパク質同定にあたっては幾つかの問題点が指摘された. 卵から成虫に到る各成長段階については, 二次元電気泳動をほぼ問題なく行うことができた. しかし, 一日だけ採取時期が異なるだけで泳動パターンがかなり変わることがわかった. また, 絹糸腺などの分析では, 内容物(絹糸)が存在すると泳動パターンが著しくことなることもわかった. 5齢3日目メス中腸において発現したタンパク質の網羅的解析を行った例を示す. リシス緩衝液によって粗タンパク質を抽出後, 二次元電気泳動を行った. そのうち主要な260個のスポットをトリプシン処理し, マイクロHPLC-イオントラップ型質量分析装置によってMSMS分析した. その結果, ショウジョウバエのゲノム情報を用いて検索したところ91個が同定され, その他の種のゲノム情報を加えるとさらに28個のスポットを同定することができた. さらにカイコEST情報から得たアミノ酸配列に対して検索して得た情報加えると, 最終的に158個のタンパク質を同定できた. 同定されたタンパク質には例えば以下のようなものがあった. 細胞骨格関連タンパク質では多数のミオシンやチューブリン等が見出された. 輸送に関するものでは多くのATPaseが同定された. その他, ヒートショックタンパク質, シャペロニン, ユビキチン, 数種類のDNA合成関連酵素などに加えて, 幾つかの糖質関連酵素等も見出された. また, 昆虫のホルモンの生合成に関係するレチノール関連タンパク質も同定された. カルレティクリンについては, ショウジョウバエゲノム情報からでは同定できなかったが, カイコで遺伝子がクローニングされていたのでそれを用いて同定することができた. カルレティクリンにおいてはリン酸化の存在が示唆された. カイコタンパク質の同定率は約60%であり, これとは別に行った根粒菌のプロテオーム解析におけるタンパク質同定率(90%超)よりはるかに低いが, それはカイコのゲノム情報をまだ使用できないことや, 微生物に比べてアミノ酸の翻訳後修飾が複雑であることによると考えられた. |
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ISSN: | 0031-9082 |