8.ニンジン48-kDa糖タンパク質の糖鎖結合部位
マメ科植物に存在するレグインスリンは, ホルモン様のペプチドで, カルスの成長, 分化, 細胞分裂を促進する効果を有する. レグインスリンは, 細胞壁や原形質膜近傍に局在し, 同じ部位に局在するレグインスリン結合タンパク質(LBP)のリン酸化活性を亢進する. このことから, LBPはレグインスリン受容体で, レグインスリンの情報伝達に係わっていると推察される. 抗ダイズLBP抗体を用いたウエスタンブロッティングによってLBPがマメ科植物以外にニンジンにも存在することが明らかにされた. ダイズおよびニンジンでLBPcDNAがクローニングされ, その塩基配列からLBPのアミノ酸配列が推定された....
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Published in | 生物物理化学 Vol. 47; no. suppl; p. 27 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本電気泳動学会
2003
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ISSN | 0031-9082 |
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Summary: | マメ科植物に存在するレグインスリンは, ホルモン様のペプチドで, カルスの成長, 分化, 細胞分裂を促進する効果を有する. レグインスリンは, 細胞壁や原形質膜近傍に局在し, 同じ部位に局在するレグインスリン結合タンパク質(LBP)のリン酸化活性を亢進する. このことから, LBPはレグインスリン受容体で, レグインスリンの情報伝達に係わっていると推察される. 抗ダイズLBP抗体を用いたウエスタンブロッティングによってLBPがマメ科植物以外にニンジンにも存在することが明らかにされた. ダイズおよびニンジンでLBPcDNAがクローニングされ, その塩基配列からLBPのアミノ酸配列が推定された. ダイズとニンジンのLBPのアミノ酸配列には40%の相同性があった. ニンジンのLBPは, extracellular dermal glycoprotein(EDGP)と呼ばれる48-kDaのタンパク質である. ニンジンのnon-embryogenicカルスを培養したとき, 細胞からユビキチンと共に液体培地に特異的に放出されてくる. EDGPのmRNAは, ニンジンの根に損傷を与えると合成量が増大する. これらの結果は, EDGPがストレス誘導型のタンパク質であることを示唆している. EDGPには, 約14%の糖鎖が含まれている. しかし, まだ糖鎖の結合部位や役割については明らかにされていない. そこで, 本研究では, EDGPの糖鎖結合部位を質量分析装置(MS)を用いて解析した. [材料および方法] EDGPをSatoh and Fujii(1988)の方法によって精製した. 精製されたEDGPを還元S-カルボキシメチル化し, 50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で, トリプシン(酵素/基質比1:50)により37℃12時間消化した. ついで, C4逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(LC)によってペプチドを精製した. これらのペプチドの中には, 4か所のアスパラギン結合型糖鎖の推定結合部位(N-X-S/T), すなわち, N110, N274, N319およびN430を含むものがあった. これらのペプチドをポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に転写し, ECL糖鎖検出キット(Amersham Bioscience社)を用いて糖鎖の検出を行った. また, LC-エレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型質量分析装置(LC-ESI Q-TOF MS)を用いてペプチドのアミノ酸配列分析を行った. 一方, 精製されたトリプシンペプチド(T65-R147)を100mMリン酸緩衝液(pH3.0)に溶解し, ペプシン(酵素/基質比1:50)で消化した. そして, N110を含むプロリンに富むペプチド(C84-E132)を得た. [結果および考察]アスパラギン結合型糖鎖の推定結合部位, すなわち, N110, N274, N319およびN430を含むペプチドをPVDF膜に転写し, ECL糖鎖検出キットを用いて分析した結果, これらのペプチドには糖鎖が結合していることが明らかになった. N110を含むトリプシンペプチド(T65-R147)は疎水性のアミノ酸に富み, 質量が7,000以上になるため, ESI MSでは分析ができなかった. そこで, このペプチドをさらにペプシンで消化し, N110を含むさらに小さなペプチド(C84-E132)を精製した. ペプチドC84-E132にはプロリンが多く含まれていた. アミノ酸配列から計算されるこのペプチドの質量は4968.48Daであったが, 実測値は6135.53Daで, 計算値より1168Da大きかった. また, このペプチドをグリコシダーゼで処理した後, ESI Q-TOF MSで分析したところ, 4968.44Daに質量が減少していることがわかった. これらの結果から, N110が1168Daの糖鎖によって修飾されていると推定された. ただし, まだプロリンがハイドロキシプロリンでこれに糖鎖が結合しているという可能性も残されている. 一方, アスパラギン結合型糖鎖の推定結合部位, N274, N319およびN430を含む3つのトリプシンペプチドの分析から, これらのアスパラギン残基にはそれぞれ約1170Daの糖鎖が結合していることがわかった. したがって, 4カ所の糖鎖結合部位には類似した糖鎖が結合しているものと推察された. なお, アミノ酸配列から計算されるEDGPの質量は43601Daであるが, ESI Q-TOF MSで実際に測定された値は48282Daであった. その差4681Daは, N110, N274, N319およびN430に結合している糖鎖の質量を合計したものに対応していた. |
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ISSN: | 0031-9082 |