10.線維筋痛症(FMS)に対する温泉森田療法の適応と限界

[目的]線維筋痛症(FMS)は慢性疼痛性疾患であり, 患者は長期に亘り, 疼痛にさいなまれる. 本症の発症には, 患者固有の生き様(身体, 心理, 社会, 実存的特異性)が関係している. FMS17例に対し, 温泉療法に森田療法を加えた温泉森田療法を実施した. 温泉森田療法とは, 約1ヶ月の湯治期間中に, 心理療法である森田療法的アプローチを行う方法である. 治療1年後までに再発のない予後良好群(13例)と再発した不良群(4例)を比較, 検討した. [対象と方法]全人的医療モデルに従い, 両群の身体, 心理, 社会, 実存的問題分析を行い, 問題点を比較した. 心理とは, 性格, 行動を指し,...

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Published in日本温泉気候物理医学会雑誌 Vol. 70; no. 1; pp. 27 - 28
Main Authors 永田勝太郎, 長谷川拓也, 岡野寛, 喜山克彦, 青山幸生, 廣門靖正
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本温泉気候物理医学会 2006
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Summary:[目的]線維筋痛症(FMS)は慢性疼痛性疾患であり, 患者は長期に亘り, 疼痛にさいなまれる. 本症の発症には, 患者固有の生き様(身体, 心理, 社会, 実存的特異性)が関係している. FMS17例に対し, 温泉療法に森田療法を加えた温泉森田療法を実施した. 温泉森田療法とは, 約1ヶ月の湯治期間中に, 心理療法である森田療法的アプローチを行う方法である. 治療1年後までに再発のない予後良好群(13例)と再発した不良群(4例)を比較, 検討した. [対象と方法]全人的医療モデルに従い, 両群の身体, 心理, 社会, 実存的問題分析を行い, 問題点を比較した. 心理とは, 性格, 行動を指し, 実存とは生きる意味, 責任, 自由性を指す(Frankl VE). [結果]FMSを心身症型(過剰適応型)と神経症型(トラウマが大きく, それに対するとらわれが強い型)に分類すると, 不良群に神経症型が有意に多かった. 問題分析では, は, 不良群に心理的問題(トラウマ)が有意に多かった. 温泉森田療法の効果は, 心身症型で91.6%に有効だったが, 神経症型では40.0%に留まった. [考察]全例が湯あたりを経験したが, 急激に緊張から解放された中で起こる心身の混乱が湯あたりであり, それが同時にカタルシスにもなりうるが, その間, 治療者は非指示的に患者を退行から自律へと転換させ, 生き様の転換へと導かねばならない. 心身症型はこの転換が比較的容易であったが, 神経症型は困難であった. この困難さは患者の心理的, 精神的要因(自我の強さ, トラウマの大きさ, 意味の有無, 自律性)によると考えられた. 湯あたりの積極的評価, ならびにその間の退行した状態から自律へといざない, 行動変容(生き様の転換)に導入するためには, 実存分析的アプローチを強力に行わなくてはならないと考えられた. 温泉という非日常的な場はこうした精神療法を行うにふさわしい場であると考えられた.
ISSN:0029-0343