P209 競技前メディカルチェックデータ解釈に関する考察-ラグビー, 競技マラソン, 柔道選手との血液生化学値の比較

【背景】ラグビーは激しい身体活動を要求する競技であり, 外傷や熱射病がしばしば発生する. 日本ラグビーフットボール協会はその成員に対し予防的に定期的なメディカルチェックを勧めている. 一般的に競技選手の医学的データが, 一般人の正常値と異なっていることは知られているが, 競技種目による差異に関する報告はほとんどない. 競技選手の身体負荷は種目によって強度や質が異なり, 血液生化学データも競技種目により違ってくることが予想される. 選手が自己の体調を的確に把握するためにも, 競技特性に配慮した血液生化学データの解釈が求められている. 【目的】本研究では, ラグビー選手の体組成, 血液生化学データ...

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Published in日本衛生学雑誌 Vol. 62; no. 2; p. 533
Main Authors 菅原典夫, 梅田孝, 戸塚学, 平川裕一, 古川照美, 上谷英史, 畠山禮子, 仁木雪子, 沼澤さとみ, 中路重之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本衛生学会 2007
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Summary:【背景】ラグビーは激しい身体活動を要求する競技であり, 外傷や熱射病がしばしば発生する. 日本ラグビーフットボール協会はその成員に対し予防的に定期的なメディカルチェックを勧めている. 一般的に競技選手の医学的データが, 一般人の正常値と異なっていることは知られているが, 競技種目による差異に関する報告はほとんどない. 競技選手の身体負荷は種目によって強度や質が異なり, 血液生化学データも競技種目により違ってくることが予想される. 選手が自己の体調を的確に把握するためにも, 競技特性に配慮した血液生化学データの解釈が求められている. 【目的】本研究では, ラグビー選手の体組成, 血液生化学データをマラソン選手, 柔道選手のものと比較し, メディカルチェックデータ解釈のための基礎的な情報提供を目的とする. 【対象者と方法】対象者は男子ラグビー選手27名, 柔道選手33名, マラソン選手32名から構成される. ラグビー選手と柔道選手は大学の競技選手, マラソン選手は別府一大分毎日マラソンに参加した競技選手であった. 調査は試合あるいは練習前に実施した. 身体組成指標として, 身長, 体重, 体脂肪量, 体脂肪率, 除脂肪体重量を測定した. 血液生化学検査のため採血を実施し, 血算(WBC, RBC, Hb, Hct, Plt), 電解質および鉄(Na, K, Cl, Fe), 生化学検査値(TP, Alb, TC, HDL, AST, ALT, CK, LDH, UA, Cr, UN)を測定した. 測定は外部委託により実施し, 正常値の範囲は委託先の基準値に従った. 本研究の実験手順については, 弘前大学医学部の倫理委員会から承認を得た. 調査開始前に, 調査計画と目的を全参加者に説明し, 同意を得た. 【統計解析】解析は, ラグビー選手との比較(ラグビー選x柔道選手, ラグビー選手xマラソン選手)を行った. 結果は平均値±標準偏差, あるいは異常値の出現頻度にて示した. 各測定値はMann Whitney U検定にて, 異常値の出現頻度はカイ二乗検定または正確確率検定にて解析した. 統計学的な有意差を判定するにあたり, Bonferroniの不等式を用い, p<0.025をもって有意とした. 【結果】血算では, ラグビー選手と柔道選手の間に差は認めらなかったが, マラソン選手のRBC, Hb, Hct, Pltは低値を示した. 電解質および鉄の比較では, ラグビー選手に比して柔道選手のNaが高値を示し, マラソン選手のNaが低値を, Clが高値を示した. 生化学検査値の比較では, ラグビー選手に比して, 柔道選手でのTP, Alb高値, TC, LDH, Crの低値を, マラソン選手でのHDL, AST, LDH, UNの高値, TP, ALT, CK, Crの低値を認めた. また, 異常値の出現頻度では, ラグビー選手に比べて柔道選手ではCrの異常値の出現頻度が低くなっていた. また, マラソン選手では, TP, HDL, CK, LDH, Crにて高い異常値出現頻度を示した. 【考察】血液生化学値において観察された違いの原因として, 1. 前日の練習による筋逸脱酵素への影響, 2. エネルギー代謝に対する影響(有酸素運動や無酸素運動のいずれが主であるかによる), が競技種目別に異なっていることが推察され, メディカルチェックデータ解釈時に競技特性への配慮が必要であることが示唆された.
ISSN:0021-5082
1882-6482