多数歯にわたる高度な歯根吸収を伴ったセメント質骨形成線維腫の1例

セメント質骨形成線維腫は, 膨張性に徐々に発育して骨を吸収して, 無自覚のうちに顎骨を膨隆させる骨原性新生物である. 一般に, 病変による歯根離開, 歯の移動はみられるが, 歯根吸収は起こらないか起こしても軽度であるといわれている. 今回我々は, 多数歯にわたり高度な歯根吸収がみられ, 画像上, 診断に苦慮したセメント質骨形成線維腫を経験したので報告する. 〔症例〕33歳, 男性. 主訴:左側下顎骨骨体部の腫脹. 現病歴:半年前より, 時々左側下顎骨骨体部の腫脹感を自覚. 2~3ヵ月前より腫脹は著明となり, 3日前より同部に圧痛が生じたため来院. 臨床所見:左側頬部から顎下部にかけて弾性硬の著...

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Published in歯科放射線 Vol. 40; no. 2; p. 172
Main Authors 犬飼健, 阪本真弥, 栗原直之, 飯久保正弘, 小野寺大, 駒井伸也, 佐藤しづ子, 菅原由美子, 古内寿, 庄司憲明, 丸茂町子, 笹野高嗣
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本歯科放射線学会 2000
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Summary:セメント質骨形成線維腫は, 膨張性に徐々に発育して骨を吸収して, 無自覚のうちに顎骨を膨隆させる骨原性新生物である. 一般に, 病変による歯根離開, 歯の移動はみられるが, 歯根吸収は起こらないか起こしても軽度であるといわれている. 今回我々は, 多数歯にわたり高度な歯根吸収がみられ, 画像上, 診断に苦慮したセメント質骨形成線維腫を経験したので報告する. 〔症例〕33歳, 男性. 主訴:左側下顎骨骨体部の腫脹. 現病歴:半年前より, 時々左側下顎骨骨体部の腫脹感を自覚. 2~3ヵ月前より腫脹は著明となり, 3日前より同部に圧痛が生じたため来院. 臨床所見:左側頬部から顎下部にかけて弾性硬の著明な腫脹がみられた. 口腔内は, 左側下顎前歯から大臼歯部にかけて歯槽部に骨様硬の腫脹を認めた. 左側下顎小・大臼歯に動揺と打診痛を認めたが, 電気歯髄診の結果, いずれも生活反応を示した. 画像所見:パノラマエックス線写真では左側下顎犬歯から大臼歯にかけての下顎骨骨体部にかけての下顎骨骨体部に, 著明な膨隆を伴う境界明瞭で鶏卵大の単胞性のエックス線透過像が認められた. また, 左側下顎犬歯~大臼歯の歯根は著しく吸収していた. 以上の所見からエナメル上皮腫を疑い, 初診1週間後に生検を施行したところ, non-epitherial cystの診断を得た. 生検時に多量の出血が認められたことから, 脈瘤性骨嚢胞を疑い血管造影を行ったところ, 左外頚動脈造影において顔面動脈, 舌動脈, 顎動脈の枝である下歯槽動脈を栄養血管とする腫瘍辺縁部の濃染像が認められた. CT所見では左側下顎骨骨体部に約65×45mmの境界明瞭な嚢胞様病変が認められた. 病変部の顎骨は著明に頬舌側に膨隆し, 骨皮質は菲薄化していた. 病変の辺縁部は多数の小さな石灰化物を含む厚さ10mm強の軟部構造で囲まれ, 造影剤を投与すると均一に増強効果を示した. また, 病変中心部はほぼ均一な低吸収域を示し, 増強効果はみられなかった. MRIでは, CT所見と同様に左側下顎骨骨体部に境界明瞭な嚢胞様構造が認められ, 病変の辺縁はT1およびT2強調像で筋肉より軽度高い信号強度, 造影剤を投与すると均一な増強効果を示した. 中心部の大部分はT1強調像で低信号, T2強調像で著明な高信号を示したが, 一部出血と思われるT1強調像で高信号の領域を認めた. 初診2ヵ月後の再生検によりセメント質骨形成線維腫の確定診断を得た. 本腫瘍は, エックス線所見では内部に種々の不透過物を含む境界明瞭な単胞性の透過像を呈することが多く, 周囲骨との境界が明瞭であることで線維性骨異形成症と鑑別される. しかし, 本症例は, 病変の大部分がエックス線透過像を示し, 多数の歯根吸収が認められたことからエナメル上皮腫や石灰化歯原性嚢胞などの歯原性腫瘍が疑われ, 診断に非常に苦慮した症例である.
ISSN:0389-9705