人と人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)を考える

企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)という言葉自体は産業保健職にも馴染み深くなり, 2004年6月の厚生労働省研究班による「労働におけるCSRのあり方に関する研究会の中間報告書」でも, 「従業員をはじめとした「人」に関する取組みについては, 他とは異なる特別な考慮が必要になるものと考えられる. 例えば, 環境負荷を軽減するに当たっては, 経営資源を別な物に置き換えることによって対処できる場合があるが, 従業員は多様な個性と能力を有しており, 従業員の健康が損なわれ, 消耗したからといって必ずしも代替がきくものではない. 」としている. こ...

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Published in産業衛生学雑誌 Vol. 54; no. 2; pp. 83 - 84
Main Authors 藤代一也, 山下珠美
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本産業衛生学会 01.03.2012
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ISSN1341-0725

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Summary:企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)という言葉自体は産業保健職にも馴染み深くなり, 2004年6月の厚生労働省研究班による「労働におけるCSRのあり方に関する研究会の中間報告書」でも, 「従業員をはじめとした「人」に関する取組みについては, 他とは異なる特別な考慮が必要になるものと考えられる. 例えば, 環境負荷を軽減するに当たっては, 経営資源を別な物に置き換えることによって対処できる場合があるが, 従業員は多様な個性と能力を有しており, 従業員の健康が損なわれ, 消耗したからといって必ずしも代替がきくものではない. 」としている. このような議論がされる中で, 職場での人と人とのつながりや信頼関係といった, いわゆるソーシャル・キャピタル(以下SC)に関する要因の重要性に対する認識も高まってきたように思われる. 事実, 職域におけるSCと健康影響に関する調査報告も散見されるようになってきた. 今回は, 定義のはっきりしないSCについて, (1)一般的に人(他人)はどの程度信頼できると思われているか(2)各種の人的ネットワークがどれだけ発達しているか(3)参加意識がどの程度か, でイメージすることとし, 下線をキーワードとしてあらかじめ関係者に提示した. 本シンポジウムは, 職域におけるSCを考えていく際に, そのイメージをつかむ一助として企画されたが, 上記キーワードを体現していると思われるシンポジスト3名による示唆に富む講演がされた. 森口紗千子氏((独)国立環境研究所)からは, 生態学研究者として研究を進める際に, 研究室やフィールドでSCを実感してきたこと, このとき自身の参加意識が大事であったことに触れられた. 西郷直樹氏(アサヒビール(株)人事部, 全日本かるた協会・永世名人)からは, 社会人となってからも競技かるたを続ける際に, 家族などの支えも含めてSCを実感してきたこと, 特に人事的な視点からのコメントもいただいた. 末吉美恵子氏((株)福一不動産・営業部長, おんな御輿役員)からは, 子供や祭りが橋渡しをしてくれたSCについて, 特に経営層に近い立場からのコメントも含めてお話いただいた. 後半のディスカッションでは, フロアから, 仕事以外でいかにいきいきと活動することができたかの示唆を求める質問や地域のSCに関しての問題提起などもされた. 興味深かったのは, 3人の演者が皆短い時間中にもその人間的魅力を聴衆に感じさせたことである. その一つの理由として, 同僚や家族, 所属組織そのものに深く感謝している旨(上記キーワードの(1))を, 単に口先だけではなくお話されていたこともあるのではないかと思われる. さらに, 上記キーワードの(3)は, 「お互いさまの精神」とも表現されるが, SCを職域で考える際にも重要なことであると考えられた.
ISSN:1341-0725