17.下顎骨成長発育に関する分子遺伝学的検討

【目的】歯科矯正臨床における目的のひとつに咬合の育成がある. その診断および治療には, 顎顔面頭蓋領域における成長発育に関する十分な理解が必要である. しかし今もって尚, 成長終了後の顎骨形態や上下顎間関係などを予測することは極めて困難である. 特に下顎骨成長発育に関する理解は, 成長発育期の咬合管理においてより重要であるにもかかわらず, 包括的な理解には至っていない. そこで我々は, 下顎骨成長発育についての分子遺伝学的検討を多角的に進めてきたので報告する. 【材料と方法】1)下顎前突症は強い遺伝性を有していることが知られているが, その原因因子は未だ不明である. そこで下顎前突症について罹...

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Published in昭和歯学会雑誌 Vol. 27; no. 1; pp. 60 - 88
Main Authors 山口徹太郎, 綿引淳一, 榎本明子, 友安洋子, 槇宏太郎, Soo Byung Park, 成田暁, 井ノ上逸朗, 入江太朗, 立川哲彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 2007
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Summary:【目的】歯科矯正臨床における目的のひとつに咬合の育成がある. その診断および治療には, 顎顔面頭蓋領域における成長発育に関する十分な理解が必要である. しかし今もって尚, 成長終了後の顎骨形態や上下顎間関係などを予測することは極めて困難である. 特に下顎骨成長発育に関する理解は, 成長発育期の咬合管理においてより重要であるにもかかわらず, 包括的な理解には至っていない. そこで我々は, 下顎骨成長発育についての分子遺伝学的検討を多角的に進めてきたので報告する. 【材料と方法】1)下顎前突症は強い遺伝性を有していることが知られているが, その原因因子は未だ不明である. そこで下顎前突症について罹患同胞対連鎖解析を行い, 原因遺伝子が存在する座位の同定を試みた(昭和大学, プサン大学, 東京大学医科学研究所ヒトゲノム遺伝子解析倫理委員会承認). 2)成長ホルモン受容体遺伝子は突発性低身長やLaron's syndromeの発症に関与する. 成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsと下顎骨形態との関連について検討した(昭和大学ヒトゲノム遺伝子解析倫理委員会承認). 3)成長終了時の下顎骨形態を決定する過程において下顎頭軟骨の軟骨性成長は重要である. その組織特異性を理解するため, mouseのcondylar cartilageとtibial cartilageにおける遺伝子発現的差異を蛍光ディファレンシャルディスプレーにより確認した(昭和大学動物実験委員会承認). 【結果】1)下顎前突症に連鎖する統計学的に有意な染色体上の座位1p36, 6q25と19p13.2を特定した. 最も強い連鎖はD1S234(maximum z1r=2.51, P=0.0012)であった. さらにD6S305(maximum z1r=2.23, P=0.025)とD19S884(maximum Z1r=1.93, P=0.0089)が得られた. 2)成長ホルモン受容体遺伝子内に下顎骨の高さと有意な相関を示すSNPを同定した. またSNPsの出現頻度に人種特異性が強く存在していた. 3)Condylar cartilageとTibial Cartilageいのずれか一方に強く発現が認められる新規の遺伝子を含む約20を同定した. 【考察】これまでの下顎骨成長発育に関する研究は, 限られた因子に着目した断片的理解にとどまっていた. 本研究から下顎骨の成長発育は, 他の成長軟骨と異なる組織特異性を有していた. また, 下顎前突症は強く遺伝的に制御されており, これを決定する因子も将来的な研究から明らかにすることが可能であることが示唆された. しかし, 成長発育過程において, このような遺伝的制御は絶対的なものではなく, 今現在, 矯正臨床において行われている顎整形的治療が効果を生み出す機能的要因への応答性も高いことが伺われた. 今後, 成長終了時の下顎骨形態を決定する詳細なゲノム情報の獲得と, 機能的要因に対する空間的・時間的・質的応答性を理解することにより, 下顎骨成長発育のより正確な形態予測, より的確な顎整形力の付与が可能となるものと考えられる.
ISSN:0285-922X