重篤な喘息のため局麻下に下顎骨体短縮術を施行した一症例

下顎変形症に対する外科的矯正手術は, 近年増加傾向にあるが, 手術を安全かつ円滑に行うため, そのほとんどが全身麻酔下で施行されている. しかし, 患者の基礎疾患等のために全身麻酔が困難な症例もみられ, このような場合, 治療目標の設定, 手術法の選択等に苦慮することもある. 今回我々は重篤な気管支喘息のため全身麻酔が困難な愚老に対し, 局所麻酔下に下顎骨体短縮術を施行した症例を経験したのでその概要を報告した. 患者は20歳女性, 下顎が左にずれていることを主訴に本学矯正科を受診, 外科的矯正の適応と診断され, 同日当科を受診した. 既往歴として4歳頃より気管支喘息に罹患しており, 喘息発作に...

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Published in昭和歯学会雑誌 Vol. 16; no. 1; p. 34
Main Authors 嘉藤麻弓, 上條竜太郎, 真鍋真人, 吉屋誠, 南雲正男, 酒井秀彰, 柴崎好伸
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 1996
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Summary:下顎変形症に対する外科的矯正手術は, 近年増加傾向にあるが, 手術を安全かつ円滑に行うため, そのほとんどが全身麻酔下で施行されている. しかし, 患者の基礎疾患等のために全身麻酔が困難な症例もみられ, このような場合, 治療目標の設定, 手術法の選択等に苦慮することもある. 今回我々は重篤な気管支喘息のため全身麻酔が困難な愚老に対し, 局所麻酔下に下顎骨体短縮術を施行した症例を経験したのでその概要を報告した. 患者は20歳女性, 下顎が左にずれていることを主訴に本学矯正科を受診, 外科的矯正の適応と診断され, 同日当科を受診した. 既往歴として4歳頃より気管支喘息に罹患しており, 喘息発作による呼吸困難のためしばしば入退院を繰り返しており, 現在本学小児科にて通院加療中である. 臨床診断は, 骨格性下顎前突症, 下顎の変形を伴う顔面の非対称, 及び正中の偏位であった. 当初, 治療目標を咬合関係, 及び顔貌の非対称の改善とし, 全身麻酔下での下顎枝矢状分割術を予定していた. 術前矯正開始後に, 小児科にて気道過敏性試験を行った. その結果, 全身麻酔時の気道刺激が, 重篤な喘息発作を誘発する危険性が高いと診断されたため, 局所麻酔下での下顎骨体短縮術に変更した. 術前矯正終了後, 静脈内鎮静法, 浸潤麻酔法, 伝達麻酔法の併用下に下顎骨体短縮術を行った. 固定にはチタンミニプレートを用い, 術後顎間固定は行わなかった. また, 術中血圧, 脈拍等のバイタルサインに変動は見られず, 術中術後を通じて喘息発作は認められなかった. 術後, 咬合関係のみならず顔貌の左右非対称についても改善を認めた. 以上より, 全身麻酔による手術が困難な患者に対しても, 基礎疾患がコントロールできれば局所麻酔下でも手術可能であることが示された.
ISSN:0285-922X