根管貼薬剤としてのCa(OH)_2 がStreptcoccus sanguisに及ぼす影響について

われわれは, 常法の根管治療では, 根管からの滲出液や疼痛が改善されない根尖性歯周炎について, Ca(OH)_2 powderを貼薬することにより, 良好な治癒が得られることをしばしば経験した. そこで, このことに興味をもち, 局所におけるCa(OH)_2 の役割を検討する目的で, in vitroでの実験を行ってきた. 今回は, とくに, Ca(OH)_2 が細菌に及ぼす影響について報告した. 供試菌として, Streptcoccus sanguis ATCC 10556を用い, Todd-Hewitt寒天培地にwellを作り, Ca(OH)_2 powder, および, Ca(OH)_2...

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Published in昭和歯学会雑誌 Vol. 4; no. 1/2; p. 92
Main Authors 山口まどか, 浅野和美, 太田るみ, 松本光吉, 山本綾子, 鷹森健志郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 1984
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Summary:われわれは, 常法の根管治療では, 根管からの滲出液や疼痛が改善されない根尖性歯周炎について, Ca(OH)_2 powderを貼薬することにより, 良好な治癒が得られることをしばしば経験した. そこで, このことに興味をもち, 局所におけるCa(OH)_2 の役割を検討する目的で, in vitroでの実験を行ってきた. 今回は, とくに, Ca(OH)_2 が細菌に及ぼす影響について報告した. 供試菌として, Streptcoccus sanguis ATCC 10556を用い, Todd-Hewitt寒天培地にwellを作り, Ca(OH)_2 powder, および, Ca(OH)_2 paste(Ca(OH)_2 と滅菌蒸溜水を練和したもの)を満たした. 好気培養後, 発育阻止帯の大きさと, 平板上のpH測定を行ったところ, 次のような結果を得た. Ca(OH)_2 pasteでは, 3.6mmの阻止帯を生じ, その部分はpH10.4以上の強いアルカリ性を示した. Ca(OH)_2 powderでは, 阻止帯は2.6mmで, pH8.3を示した. さらに, 寒天平板を冷蔵庫内に保存して, 薬剤を浸透させた後に培養した場合には, 阻止帯は10.7mmと著しく大きくなり, その部分のpHは9.3以上であった. 7日間におけるpHの変化については, Ca(OH)_2 pasteでは上昇傾向がみられたが, Ca(OH)_2 powderでは低下していた. このことが, pasteとpowderの発育阻止pHの差を示していると考えられた. また, 阻止帯の境界部付近をSEMにて観察したところ, 溶菌現象など菌の変性が認められた. 以上の実験から, Ca(OH)_2 はその強いアルカリ性によって, 細菌に対する発育阻害作用をもつものと考えられた. しかし, その作用は, Ca(OH)_2 に近接したpHの高い部分にのみ限局している上, 揮発性をもたないので, 根尖側枝や象牙細管など, 機械的清掃の及ばない部分の消毒は期待できないと考えられた. Ca(OH)_2 は, 組織親和性の高いことが長所であるといわれており, 今後は, 根管内に貼薬した場合に疼痛が軽減し, 症状の改善がみられる理由について, 臨床生理学的に検討を加えていく予定である.
ISSN:0285-922X