S05-5 レーザーによる耳小骨の切削

【はじめに】中耳手術において振動を加えることなく耳小骨を加工したり, 連鎖の切断, アブミ骨底板の開窓や切断を行うことは非常に困難であり, またこの操作が手術成功に至る1つのポイントとなっている. 近年, レーザーを用いて局所の振動なく手術を行う試みが欧米を中心に行われるようになってきた. 本邦でも種々のレーザーを用いて中耳手術を行ったという報告がなされるようになってきた. しかしどのようなレーザーを用いるかは各術者の臨床経験より選択されており, 基礎的な裏付けはほとんどなされていないのが現状である. そこで我々は中耳手術における側頭骨や耳小骨の切削に対し, どのようなレーザーが最も適している...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 23; no. 3; p. 184
Main Authors 毛利大介, 熊崎佳美, 山本可菜子, 湊川徹, 熊崎護, 毛利学
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 2002
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:【はじめに】中耳手術において振動を加えることなく耳小骨を加工したり, 連鎖の切断, アブミ骨底板の開窓や切断を行うことは非常に困難であり, またこの操作が手術成功に至る1つのポイントとなっている. 近年, レーザーを用いて局所の振動なく手術を行う試みが欧米を中心に行われるようになってきた. 本邦でも種々のレーザーを用いて中耳手術を行ったという報告がなされるようになってきた. しかしどのようなレーザーを用いるかは各術者の臨床経験より選択されており, 基礎的な裏付けはほとんどなされていないのが現状である. そこで我々は中耳手術における側頭骨や耳小骨の切削に対し, どのようなレーザーが最も適しているかを明らかにするため, 耳小骨の光吸収スペクトルの解析を試みた. 更にその結果から最適なレーザーを選択し, その効果を確認した. 【材料と方法】材料にはヒト耳小骨(キヌタ骨)を使用した. 薄切切片(30-40μm)を作成し, この光吸収スペクトルを測定した. 測定装置にはフーリエ変換赤外分光計FT-IR(Perkin Elmer製, Spectrom GX)を用いた. 次にこれらの結果から得られた光最大吸収係数を基に最適レーザーを選択し, 耳小骨に実射しその効果を調べた. 照射結果は超深度形状測定顕微鏡VK-8500(キーエンス社製)で観察を行った. 【結果】1)光吸収係数のピークは3μmと10.2μmに存在した. そこでこれらのピークに一致する発振波長をもつCO2レーザーとEr:YAGレーザーを選択し, 耳小骨への実射実験を行った. 2)耳小骨の切削にはEr:YAGレーザーがCO2レーザーと比べ優れていることが判明した. 【考察】レーザーを用いた操作を行う場合には照射対象物表面での反射や透過が少なく, かつ吸収しやすい波長をもつ光を選択する事が重要である. 耳小骨の最大吸収値は3μmと10.2μmであることが判明したが, これはこれまでの我々の研究から歯牙象牙質の吸収値と非常に近いといえる. この結果, 耳小骨の切削には3μmのピークに着目すれば発振2.94μmのEr:YAGレーザーが, 10.2μmのピークに着目すれば発振10.6μmのCO2レーザーがそれぞれ有用であると推察される. しかしながら照射実験の結果から中耳手術における骨の処理にはEr:YAGレーザーが最も適していると考えられた.
ISSN:0288-6200