共催セミナー 輸血後鉄過剰症とその対策
再生不良性貧血や骨髄異形成症候群では造血不全の結果種々の程度の貧血をきたす. 赤血球濃厚液の輸血は貧血に対する最も有効な治療法であるが, 輸血療法の有害事象としてアレルギー反応, 血液を介した感染症の危険性とともに, 生体における積極的な鉄分排泄機構の欠如に由来する輸血後鉄過剰症が挙げられる. 赤血球1単位にはおよそ100mgの鉄分を含むが, 輸血により大量の鉄分が静脈内に投与されるとトランスフェリンは飽和し, 残りの鉄分は非トランスフェリン結合鉄として多くの実質臓器に蓄積する. 輸血が繰り返されることで, 細胞内に沈着した鉄が産生する活性酸素を介した細胞障害が進行し, 臨床的には膵臓障害によ...
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Published in | 日本輸血細胞治療学会誌 Vol. 58; no. 1; pp. 89 - 90 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本輸血・細胞治療学会
2012
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ISSN | 1881-3011 |
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Summary: | 再生不良性貧血や骨髄異形成症候群では造血不全の結果種々の程度の貧血をきたす. 赤血球濃厚液の輸血は貧血に対する最も有効な治療法であるが, 輸血療法の有害事象としてアレルギー反応, 血液を介した感染症の危険性とともに, 生体における積極的な鉄分排泄機構の欠如に由来する輸血後鉄過剰症が挙げられる. 赤血球1単位にはおよそ100mgの鉄分を含むが, 輸血により大量の鉄分が静脈内に投与されるとトランスフェリンは飽和し, 残りの鉄分は非トランスフェリン結合鉄として多くの実質臓器に蓄積する. 輸血が繰り返されることで, 細胞内に沈着した鉄が産生する活性酸素を介した細胞障害が進行し, 臨床的には膵臓障害による糖尿病, 肝臓障害による肝硬変, ならびに心筋障害による心不全といった重篤な病態を生じ, 致命的になる. 過去の検討により, 輸血総量が40単位を越えると臨床症状が現れ始め, 200単位を超えるころには深刻な状況になることが知られている. すなわち, 赤血球輸血は一時的に生活の質を高めるものの, 長期間反復することで確実に寿命を短縮させる. 鉄過剰症の予防のため, 鉄キレート剤として以前からデフェロキサミンが使用されてきた. しかし, 十分な効果を示すためには頻回の皮下注射もしくは持続点滴が必要であること, また免疫低下状態の患者に真菌感染症を誘発する危険性のあることから, 血小板減少や好中球減少を伴い, 免疫能の低下した再生不良性貧血や骨髄異形成症候群患者に積極的に用いられてこなかった. むしろ, 慢性の貧血を呈する患者への輸血を行うヘモグロビン閾値を低く設定し(5g/dlもしくはそれ以下)できるだけ輸血総量を増やさない方針がとられてきた. しかし, このようなヘモグロビン値では十分な社会活動は困難である. そのような状況を打開することが期待されているのが近年発売されたデフェラシロクスである. デフェラシロクスは経口薬であり, 有害事象として消化器症状(嘔気, 食思不振, 下痢), 腎機能障害, 皮疹などが挙げられるが, 今のところ真菌感染を助長しないとされている. デフェラシロクスは輸血療法中の患者の鉄過剰症の進行を防ぐことが期待されたが, 一定期間の服用によりMRを用いた検討で心臓, 肝臓の鉄分量の低下も示された. すなわち, すでに肝臓, 心臓に沈着した鉄分を除去することも可能と考えられている. 体内の鉄分量の指標として血清フェリチン値が用いられ, 本邦で作成された輸血後鉄過剰症の診療ガイドでは, デフェラシロクスを用いて血清フェリチン値を500~1000ng/mlに保つことが推奨されている. デフェラシロクスにより, 輸血後鉄過剰症の発症を防ぐことができれば, 輸血依存性患者の予後を大きく改善させられる. 同種造血幹細胞移植の適応も見直されるであろう. さらに, 鉄過剰症をおこさずに輸血量を増やすことができれば, 患者の社会生活の質も向上するであろう. とはいえ, 新規薬剤の常としてデフェラシロクスの有害事象がすべて明らかにされた訳ではなく, 使用患者の選択には慎重さが求められる. 本講演では, 当科におけるデフェラシロクス使用経験を含めて, 輸血後鉄過剰症におけるデフェラシロクスの位置づけを考えてみたい. |
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ISSN: | 1881-3011 |