LS-3. 鉄過剰症の予防と治療

鉄過剰症とは, 体内の鉄量が増加し, 細胞内に異常な量の鉄が蓄積した病態で, その原因には, 遺伝性(原発性)のものと, 血液疾患, 肝疾患過剰輸血などに起因する二次性(続発性)のものがある. ヒトの体内における総鉄量は3~4gで, その大部分は赤血球のヘモグロビンに結合して存在する(ヘム鉄). 老朽化した赤血球は脾臓などで破壊され, ヘム鉄は回収され再利用される. 皮膚や消化管粘膜などの脱落によっても鉄の損失が生じるが, その量は約1~2mg/日であり, その分は食事鉄として消化管から吸収される. 骨髄異形性症候群や再生不良性貧血などでみられる難治性貧血に対しては, 定期的な赤血球輸血療法が...

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Published in日本輸血細胞治療学会誌 Vol. 54; no. 4; p. 485
Main Author 石川隆之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血・細胞治療学会 2008
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ISSN1881-3011

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Summary:鉄過剰症とは, 体内の鉄量が増加し, 細胞内に異常な量の鉄が蓄積した病態で, その原因には, 遺伝性(原発性)のものと, 血液疾患, 肝疾患過剰輸血などに起因する二次性(続発性)のものがある. ヒトの体内における総鉄量は3~4gで, その大部分は赤血球のヘモグロビンに結合して存在する(ヘム鉄). 老朽化した赤血球は脾臓などで破壊され, ヘム鉄は回収され再利用される. 皮膚や消化管粘膜などの脱落によっても鉄の損失が生じるが, その量は約1~2mg/日であり, その分は食事鉄として消化管から吸収される. 骨髄異形性症候群や再生不良性貧血などでみられる難治性貧血に対しては, 定期的な赤血球輸血療法が不可欠である. 赤血球製剤1単位には100mgの鉄分が含まれるが, 鉄の排泄機構がないため, 1単位の輸血に含まれる鉄分が排泄されるのに50~100日要することとなる. 従って, 月に4単位程度の輸血を一定期間行えば鉄過剰症に至るのは明白であろう. 過剰に取り込まれた鉄は各種臓器に沈着し, 細胞障害を来すが, なかでも心筋障害(心不全)と肝障害(肝不全)は生命予後を左右する. 鉄過剰症の診断には, MRなどを用いて肝臓もしくは心臓の鉄濃度を測定することが理想的であるが, 煩雑であるのみならずいまだ統一された測定法がない. 正常人では血清フェリチン値と貯蔵鉄量が相関していることから, 血清フェリチン値が鉄過剰症の重症度を含めた診断に用いられている. 輸血後の鉄過剰状態により, 血清フェリチン値が1,000ng/mLを超えると臓器障害が明白となり, 2,500ng/mL以上では心不全の発生率が著明に上昇することが知られている. 厚生労働省特発性造血障害調査研究班が策定した輸血後鉄過剰症の診療ガイドラインでは, 赤血球輸血総量20単位(小児では赤血球濃厚液50mL/体重kg)以上かつ血清フェリチン値500ng/mL以上を輸血後鉄過剰症と定義している. また, 鉄キレート剤を用いての治療開始基準を, 赤血球輸血総量40単位以上(小児の場合, 赤血球濃厚液100mL/体重kg以上)かつ血清フェリチン値1,000ng/mL以上と定めている. また, 鉄キレート療法の目標として維持すべき血清フェリチン値は500~1,000ng/mLと提唱している. しかし, 血清フェリチン値は腫瘍や炎症によっても軽度ながら上昇し, 成人Stiu病や血球貪食症候群などにおいては鉄過剰でないにも関わらず1,000ng/mL以上の著明な高値を呈する. 鉄キレート療法の開始に際して, フェリチン値が高値となりうる疾患の鑑別が重要である. 従来, 鉄キレート剤は注射剤のデフェロキサミンが汎用されてきた. 十分な除鉄のためには, デフェロキサミンの連日投与が不可欠であるが, 汎血球減少を伴う患者には併発症のリスクが高く, 満足の行くコンプライアンスが得られなかった. また, 自己注射が保険適応でない我が国における外来での本剤の使用にはおのずから限界があった. その意味で, 経口鉄キレート剤, デフェラシロクスの発売は, 輸血後鉄過剰症の治療における大きな進歩である. デフェラシロクスは1日1回の投与で, 肝臓・心臓などからの鉄除去が可能である. デフェラシロクスを用いることで, 鉄過剰症発症の心配なしに輸血量を増やすことが可能であれば, 難治性貧血患者における維持ヘモグロビン値を高めることができる. それにより就学, 就労の機会が与えられる難治性貧血患者が増加することを強く期待するものである.
ISSN:1881-3011