S-1. 血小板輸血の適応(禁忌も含めて)

血小板輸血の目的は血小板成分を補充することにより, 血小板数の減少もしくは機能異常に起因する重篤な出血の治療及びにその予防を行うことである. つまり, 患者本来の血小板だけでは止血困難であり, このままでは生命に危険を及ぼす重篤な出血が早急に引き起こされる可能性の高いと判断された場合においてのみその使用が推奨されており, 輸血による副作用や感染症の可能性からも単なる検査値としての血小板数の増加を目的とした使用は避けなければいけない. 現在, 血小板製剤の投与はその適正利用の観点から使用指針として各々の病態における血小板数を指標とした使用指針が定められている. つまり臨床医は血小板減少を呈した患...

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Published in日本輸血細胞治療学会誌 Vol. 54; no. 4; p. 477
Main Author 八木秀男
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血・細胞治療学会 2008
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ISSN1881-3011

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Summary:血小板輸血の目的は血小板成分を補充することにより, 血小板数の減少もしくは機能異常に起因する重篤な出血の治療及びにその予防を行うことである. つまり, 患者本来の血小板だけでは止血困難であり, このままでは生命に危険を及ぼす重篤な出血が早急に引き起こされる可能性の高いと判断された場合においてのみその使用が推奨されており, 輸血による副作用や感染症の可能性からも単なる検査値としての血小板数の増加を目的とした使用は避けなければいけない. 現在, 血小板製剤の投与はその適正利用の観点から使用指針として各々の病態における血小板数を指標とした使用指針が定められている. つまり臨床医は血小板減少を呈した患者を早急に診断し, その病態を理解したうえで血小板輸血の適応を判断し, 必要最小限度の輸血を行うことが求められている. 実際には血小板輸血は原則前日予約であるため, 翌日の患者の状態を予測して血小板製剤を発注する必要があるが, 実際には各患者の病態はそれぞれ異なり, 受けている治療やその病状も様々であるため血小板減少の程度や出血の危険性の予測は容易ではなく, 臨床医にとってはストレスのかかる仕事となっているのが現状である. 血小板減少症にはその成因から, (1)血小板産生障害と, (2)血小板消費亢進に大別され, 前者の原因として巨核球低形成(再生不良性貧血や急性白血病など), 無効造血(ビタミンB12欠乏症, 葉酸欠乏症, 発作性夜間血色素尿症, 骨髄異形性症候群〉, 先天性血小板減少症などが挙げられる. 一方, 後者には免疫反応による血小板減少症として特発性血小板減少性紫斑病新生児同種免疫性紫斑病, 輸血後紫斑病2次性血小板減少症, 薬剤性血小板減少症などがあり, 非免疫性血小板減少として播種性血管内凝固, 血栓性血小板減少性紫斑病溶血性尿毒症症候群, 体外循環使用, 大量出血などが挙げられる. これらの疾患のなかで血小板輸血の適応とされているのは血小板産生障害による各種血小板減少症と非免疫学的機序による血小板減少を来す播種性血管内凝固, 体外循環使用, 大量出血である. 一方, 血小板輸血がその病態の悪化をきたすことが判明している血栓性血小板減少性紫斑病(TTP), 溶血性尿毒症症候群(HUS), ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は血小板輸血の禁忌とされている. TTPは溶血性貧血, 血小板減少性紫斑病精神神経症状, 腎機能障害, 発熱の5徴候を特徴とする疾患であり, その病因はフォンビルブランド因子(VWF)を特異的に切断する酵素であるADAMTS13の欠乏であり, 先天性はその責任遺伝子であるADAMTS13遺伝子異常, 後天性はADAMTS13に対する自己抗体の産生により引き起こされる. その病態は血管内皮細胞で産生されて血中に放出された直後の超高分子量VWF重合体(unusually large-VWF multimers:UL-VWFMs)がTTP患者ではADAMTS13活性の著減により分解されずにそのまま循環血中に存在するためずり応力などによって進展・活性化されると血管内で血小板と反応して血小板凝集塊が形成され, 血小板血栓として血管を閉塞し, 消費性血小板減少と臓器障害が引き起こされる. HUSは溶血性貧血, 血小板減少, 急性腎不全を3主徴とする疾患であり腸管出血性大腸菌(主にEscherichia coli O157:H7)感染に続発し, 同菌が産生する志賀毒素(Shiga like toxin, 通称ベロ毒素, 現在では名称をStxに統一)により発症する. Stxは腎血管内皮細胞表面に結合することにより腎血管内皮細胞からUL-VWFMsの放出と内皮細胞の壊死より, 内皮下組織が露出すると放出されたUL-VWFMsは露出した内皮下組織に結合し, 次いで血小板の接着が起り, 血小板表面のGPIIb/IIIaが活性化され, 血漿中のフィブリノゲンと結合することにより血小板血栓が形成される. これらの病態からTTP並びにHUSに血小板輸血を行うことは血小板数の上昇による出血傾向の改善は望めず, 却って血小板血栓形成を促進することによりその病態の悪化はもちろんのこと, 脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な血栓症を引き起こす可能性が指摘されている. HITは血栓症の治療並びにその予防や体外循環時の血液凝固予防に用いられたヘパリンによって引き起こされる重大な副作用であり, 急激な血小板減少と新たな動静脈血栓症が引き起こされる. HITの病態とはヘパリン依存性の自己抗体(HIT抗体)が免疫複合体を形成して直接血小板に作用することによる血小板減少並びにトロンビン産生を促進することによる全身性の動静脈血栓症であるため, 血小板輸血は重篤な血栓症を誘発する. つまり, 血小板輸血の適応判断には対象患者における血小板減少の成因並びに病態解析が必要であり, 少なくとも禁忌疾患であるTTP, HUS, HITの除外が不可欠であり, 疑診例には直ちにADAMTS13活性やHIT抗体の測定を行うことが必須である.
ISSN:1881-3011