S-V-1 貯血式自己血輸血の現状と課題

(貯血式自己血輸血の現状)20年近くにわたって整形外科や心臓外科領域を中心に導入, 実施されてきた貯血式自己血輸血(術前貯血)には, 当初, 貯血期間の限界と採血後貧血の二つの問題があった. 貯血期間延長の試みとして採血, 戻し輸血法が開発され, 保存液としてMAP液やCPDA-1液も導入された. 採血後貧血に対してはエリスロポエチン(rEPO)が導入され, 貧血患者においても安全な貯血が可能となった. 新しい試みとして, 赤血球成分採取法や自己フィブリン糊などの自己成分輸血も進められてきた. また, 貯血時にrEPOを併用した股関節手術後の致死的な肺塞栓症の報告に対して凝固, 線溶能や血小板...

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Published in日本輸血学会雑誌 Vol. 48; no. 2; p. 116
Main Author 脇本信博
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 2002
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ISSN0546-1448

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Summary:(貯血式自己血輸血の現状)20年近くにわたって整形外科や心臓外科領域を中心に導入, 実施されてきた貯血式自己血輸血(術前貯血)には, 当初, 貯血期間の限界と採血後貧血の二つの問題があった. 貯血期間延長の試みとして採血, 戻し輸血法が開発され, 保存液としてMAP液やCPDA-1液も導入された. 採血後貧血に対してはエリスロポエチン(rEPO)が導入され, 貧血患者においても安全な貯血が可能となった. 新しい試みとして, 赤血球成分採取法や自己フィブリン糊などの自己成分輸血も進められてきた. また, 貯血時にrEPOを併用した股関節手術後の致死的な肺塞栓症の報告に対して凝固, 線溶能や血小板機能の変化を検討した結果, 術前貯血時のrEPO併用が下肢深部静脈血栓症に関与する可能性は極めて少ないと考えられてきた. (現在の問題点)ところが, 良質の医療と考えられている術前貯血もその普及につれて, 逆にABO不適合輸血による事故などの問題も生じている. 消化器外科領域での普及も依然として遅れている. また, 近年の輸血感染症の減少から同種血輸血の安全性が強調され, 術前貯血の必要性が再検討されようとしてきている. (今後の課題)高齢化により将来の献血血液の供給量が低下すると予測されているため, 今後も術前貯血の重要性は高まると考えられる. 術前貯血の導入が手術時出血量の減少および適正輸血の推進を促進してきた点からも術前貯血が必要である. 更なる術前貯血の普及のためには, 1. 「自己血輸血は安全である」という錯覚を排除し, 細菌汚染や血管迷走神経反射のない採血, 温度管理のできる保冷庫での保管, 当該患者自身の血液の返血を念頭に術前貯血を実施すること, 2. 同種血輸血に対する自己血輸血の優位性を証明すること, 3. 「輸血は一種の臓器移植であるからこそ安易に行うべきでない」という認識を持つこと, が必要であると考えられる.
ISSN:0546-1448