輸血後ウイルス感染
輸血後ウイルス感染で現在重要な問題となっているのは, 肝炎ウイルス群, レトロウイルス群, ヘルペスウイルス群, パルボウイルスである. その共通している特性は, いずれも持続性ウイルス感染で, ウイルス血症の状態であるが, 臨床的には無症候性ウイルスキャリアの状態で血液中にウイルスが存在し, 輸血を介して新しい宿主に侵入し, 新たな感染症をひき起こす点である. 急性感染でウイルスが短期間に急激に増殖して宿主細胞を破壊してしまうような感染様式とは異なり, 持続性感染は, 宿主細胞とウイルスが共存して種の保存を巧妙に達成している. 従って古典的な細胞培養法や一般の小動物実験ではどうしても発見でき...
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Published in | 日本輸血学会雑誌 Vol. 39; no. 1; pp. 245 - 248 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本輸血学会
1993
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Summary: | 輸血後ウイルス感染で現在重要な問題となっているのは, 肝炎ウイルス群, レトロウイルス群, ヘルペスウイルス群, パルボウイルスである. その共通している特性は, いずれも持続性ウイルス感染で, ウイルス血症の状態であるが, 臨床的には無症候性ウイルスキャリアの状態で血液中にウイルスが存在し, 輸血を介して新しい宿主に侵入し, 新たな感染症をひき起こす点である. 急性感染でウイルスが短期間に急激に増殖して宿主細胞を破壊してしまうような感染様式とは異なり, 持続性感染は, 宿主細胞とウイルスが共存して種の保存を巧妙に達成している. 従って古典的な細胞培養法や一般の小動物実験ではどうしても発見できなかったこれらのウイルス群について, 免疫化学的, あるいは遺伝子工学の進歩によりその発現が可能となり, より安全な輸血をめざしたスクリーニング法による対策が進められている. この分野の研究は, 古典的ウイルス学に加え, 免疫化学を導入した第2世代, 遺伝子工学を導入した第3世代のウイルス学の新分野を開拓しつつあり, 広汎なスクリーニングの結果は貴重な疫学的所見の集積ともなり, これらウイルスの生態, 自然史が明らかにされてきている. 輸血という操作で入る血液量は直接血中に入る量がはるかに多いため輸血ないし血液製剤の輸注では, 日常生活における感染ルートで侵入するウイルス量よりも, はるかに大量のウイルス量が直接生体に侵入する可能性が高い. 従って極微量のウイルス量の存在を検出する高感度の方法が, 輸血後ウイルス感染を防止するスクリーニング法として要求されている. 医療現場よりの要求に対応するために, スクリーニング法としては5SすなわちSensitive, Speedy, Specific, Simple, そしてSafetyの高い方法でなければならない. 第2世代, 第3世代のウイルス学の進展に対応した方法論の開発はまた輸血学の極めてexcitingな新分野となって来ている. 輸血後感染としては, クロイツフェルド-ヤコブ病などのプリオン病の関与も考えられている1)が, 輸血後肝炎の章は片山博士が担当しているため, 本章では主としてその次に大きな問題となっている輸血後レトロウイルス群について, さらに, パルボウイルス, ヘルペスウイルス群について略述する. |
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ISSN: | 0546-1448 |