352 高濃度人工炭酸泉下肢局所浴負荷前後における血液ガス動態の変化についての検討

高濃度人工二酸化炭素泉浴(以下, 炭酸浴)は褥瘡治療や閉塞性動脈硬化症の治療等に効果があることはすでに知られている. また, 炭酸泉浸漬部位のみならず非浸漬部位である褥瘡に対して良好な治療成績を我々は経験しており, この効果の一因として全身の血液動態の変化が関与していると仮定した. 今回, 我々は炭酸泉と淡水で浴水負荷前後における血液動態の変化について, 血液ガス分圧を指標として検討を行った. 本研究の趣旨説明を受け, 文書にて同意の得られた健常成人3名(26.7±6.4歳)を対象とし, 座位にて両下腿を15分間38℃の炭酸泉(1000ppm, CARBO MEDICA, 三菱レーヨン)と淡水...

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Published in理学療法学 Vol. 31; no. suppl-2.1; p. 176
Main Authors 荒木靖, 石田恵子, 今田奈弥, 中嶋恭子, 横山大輔, 井上康, Chikako Kawakami Poffenberger, 祢屋俊昭, 中嶋正明, 中徹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 2004
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Summary:高濃度人工二酸化炭素泉浴(以下, 炭酸浴)は褥瘡治療や閉塞性動脈硬化症の治療等に効果があることはすでに知られている. また, 炭酸泉浸漬部位のみならず非浸漬部位である褥瘡に対して良好な治療成績を我々は経験しており, この効果の一因として全身の血液動態の変化が関与していると仮定した. 今回, 我々は炭酸泉と淡水で浴水負荷前後における血液動態の変化について, 血液ガス分圧を指標として検討を行った. 本研究の趣旨説明を受け, 文書にて同意の得られた健常成人3名(26.7±6.4歳)を対象とし, 座位にて両下腿を15分間38℃の炭酸泉(1000ppm, CARBO MEDICA, 三菱レーヨン)と淡水にそれぞれ別の日に浸漬した. 浸漬前と浸漬後10分間の座位での安静後に, 医師により上肢の動脈と静脈から採血を行い, 酸素分圧(PO2)及び, 二酸化炭素分圧(PCO2)を測定した. 各浴水負荷前の値を100として, 各浴水負荷後の値から変化指数を算出し, その平均値で検討を行なった. 3名の各浴水負荷前後でのそれぞれの変化指数の平均値は, 動脈血PO2, 動脈血PCO2, 静脈血PO2, 静脈血PCO2の順で以下のようであった. 炭酸浴前後では106.8, 92.7, 175.7, 84.8であった. 淡水浴前後では102.9, 98.6, 136.9, 90.6であった. 本研究では動脈血, 静脈血ともにPO2の変化指数は炭酸浴で淡水浴よりも増加し, PCO2の変化指数は炭酸浴で淡水浴よりも減少するという結果となった. 動脈血でPO2の増加は経皮侵入したCO2による呼吸促進が一因と考えられる. 一方, 経皮侵入したCO2は局所血流の増加, Bohr効果と組織呼吸の抑制を引き起こし, 組織へのO2供給の増加, すなわち組織PO2の増大を引き起こす. その結果, 毛細血管PO2が増加し, ヘモグロビンからのO2の解離が減少するので, 静脈血のPO2が増加したものと考えられる. 今回の研究結果は下肢局所における炭酸浴が血液ガス動態に変化を与えるということを示唆するものとなった. 例数が少なく, 今後更なる検討が必要だが, 今回の結果は人工炭酸泉下肢局所浴による治療が侵漬部位での治療効果のみならず, 非侵漬部位での褥瘡治療や呼吸器疾患などの治療に, 適応範囲を広げられる可能性を示すものと考えられた.
ISSN:0289-3770