350 人工炭酸泉浴が神経伝導速度に及ぼす影響

炭酸泉は二酸化炭素(CO2)ガスの経皮吸収により, 末梢血管拡張, 局所の酸素(O2)分圧の上昇, 皮膚血流量増加などの作用を有し, 臨床的効果として疲労回復, 鎮痛効果, 高血圧症, 褥瘡等に対する治療効果を持つことが報告されている. 今回われわれは炭酸泉浴が神経伝導速度に及ぼす影響について検討し, 深部組織酸素飽和度との関係も含めて考察したので報告する. 対象は健常20代成人7名(男性2名, 女性5名)とした. 本実験における浴水は人工炭酸泉(MINATO製CARBOTIZER CT-230), さら湯の2条件とし, 浴水温度は自覚的不感温度36℃とした. 室温は26℃に保たれた. 1分間...

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Published in理学療法学 Vol. 31; no. suppl-2.1; p. 175
Main Authors 吉田巳有紀, 道菅聖子, 野中紘士, 秋山純一, 中嶋正明, 祢屋俊昭, Chikako Kawakami Poffenberger
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 2004
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Summary:炭酸泉は二酸化炭素(CO2)ガスの経皮吸収により, 末梢血管拡張, 局所の酸素(O2)分圧の上昇, 皮膚血流量増加などの作用を有し, 臨床的効果として疲労回復, 鎮痛効果, 高血圧症, 褥瘡等に対する治療効果を持つことが報告されている. 今回われわれは炭酸泉浴が神経伝導速度に及ぼす影響について検討し, 深部組織酸素飽和度との関係も含めて考察したので報告する. 対象は健常20代成人7名(男性2名, 女性5名)とした. 本実験における浴水は人工炭酸泉(MINATO製CARBOTIZER CT-230), さら湯の2条件とし, 浴水温度は自覚的不感温度36℃とした. 室温は26℃に保たれた. 1分間の安静状態の後, 5分間の左大腿部の阻血を行った. 対側を無処置の対照部位とした. 阻血方法は, 各被験者の圧迫力が同一となるように血圧計のマンシェットを使用し, 210mmHgで加圧して行った. その後10分間, 両下肢を膝蓋骨下まで浴槽に浸漬し入浴を行った. 皮膚血流, 深部組織血流動態の測定プローブは腓腹筋筋腹部に貼付した. 測定項目は, 皮膚血流, 深部組織酸素化ヘモグロビン量(Oxy-Hb〕, 脱酸素化ヘモグロビン量(Deoxy-Hb), 深部組織酸素飽和度(StO2)について持続的に測定を行った. 神経伝導速度(MCV)測定には脛骨神経を選択し, 阻血前後, 入浴後について測定を行った. StO2は, 阻血により入浴前はさら湯82.6%, 炭酸浴87.12%に低下, 入浴5分後はさら湯89.32%, 炭酸浴97.88%, 入浴10分後はさら湯87.78%, 炭酸浴96.58%まで回復した. MCVは, 阻血により入浴前はさら湯97.33%, 炭酸浴97.23%まで低下, 入浴後さら湯98.14%, 炭酸浴99.92%まで回復した. 本研究の結果から, StO2については炭酸泉浴での回復がより大きい傾向であることが示された. この機序として経皮吸収したCO2の血管への直接作用による血管拡張作用と, pHが酸性に傾き, HbからのO2の解離が促進され, 組織へのO2供給が促進されるO2供給促進作用の相乗効果によりStO2を上昇させると考えられる. また, 神経伝導速度の低下した神経では炭酸泉浴により神経伝導速度の回復時間が短縮されていることも示された. この傾向の理由として, 上記で述べた血管拡張作用など循環に関する影響からの2次的な回復と直接神経線維自体への作用による回復という2つが考えられる. 阻血により神経伝導速度の低下, StO2の低下がみられた. 阻血状態と同様で末梢循環が障害されていれば, 神経伝導速度が遅くなり, 反射(伸張反射, 姿勢反射)も鈍くなると考えられる. 現在では閉塞性動脈硬化症, 糖尿病など末梢循環が障害されている症例に対しての治療が進められてきたが, 今回の結果から神経機能低下が原因となる疾患への適用の可能性も示唆された.
ISSN:0289-3770