前十字靭帯再建者の術後走行プログラム導入における術前後の膝屈筋力の重要性について

走行障害と膝伸筋力との関係については, これまでいくつかの報告がある. 当センターの前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者の走行訓練導入に際しても, 膝伸筋力は走行訓練移行のための重要な判断材料の一つと考えており, 黄川らが提唱している膝伸展筋力から運動機能を推定できる体重支持指数(以下WBI)を参考にしているが, 膝伸筋より膝屈筋のトルク異常が走行訓練に影響していると思われる症例も多く見られ, 膝屈筋の評価の重要性を感じている. 今回, ACL再建術を行った患者の術前及び術後3ヶ月の等速性膝屈伸筋トルクを測定し, 術後3ヶ月に走行訓練導入できたグループとできなかったグループの間で膝屈伸筋トルク...

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Published in理学療法学 Vol. 27; no. suppl-2; p. 206
Main Authors 松崎洋人, 今井基次, 石橋俊郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 2000
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Summary:走行障害と膝伸筋力との関係については, これまでいくつかの報告がある. 当センターの前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者の走行訓練導入に際しても, 膝伸筋力は走行訓練移行のための重要な判断材料の一つと考えており, 黄川らが提唱している膝伸展筋力から運動機能を推定できる体重支持指数(以下WBI)を参考にしているが, 膝伸筋より膝屈筋のトルク異常が走行訓練に影響していると思われる症例も多く見られ, 膝屈筋の評価の重要性を感じている. 今回, ACL再建術を行った患者の術前及び術後3ヶ月の等速性膝屈伸筋トルクを測定し, 術後3ヶ月に走行訓練導入できたグループとできなかったグループの間で膝屈伸筋トルクを比較検討したところ若干の知見を得たので報告する. 平成7年9月から平成11年7月までに当センターにて骨付き膝蓋腱を用いた前十字靭帯再建術を施行し, 術後3ヶ月にADL上痛みのない19症例(男性7例, 女性12例:平均年齢27.5歳)を対象とした. 評価は両膝術前, 及び術後3ヶ月の膝屈伸筋の求心性(CON), 及び遠心性(ECC)トルク(角速度60°/sec)を測定し, 以下の条件を満たす2群にてピークトルク(PT)体重比, PT患/健比, 膝伸筋力/屈筋力比(Q/H比), トルク波形のそれぞれの比較を行った. A群:術後3ヶ月でWBI推定値60%未満で走行不可能な8例. B群:同様にWBI推定値50%以上で走行可能な11例. 筋力測定にはKIN-COM125APを使用した. (1)PT体重比は術前後とも, 両群間の伸筋トルクに統計的差はなかった. 屈筋も術後には差がなかったが, 術前の求心性及び, 遠心性トルクでいずれも有意(p<0.01)にA群の方が低い値であった. (2)PT患/腱比も術前後を通じ, 両群間の伸筋トルクに差はなかったが, 術前屈筋の求心性(p<0.01)及び遠心性トルクで(p<0.01), さらに術後屈筋の遠心性トルク(p<0.05)でいずれも有意にA群の方が低い値であった. Q/H比は術前の(CON)Q/(ECC)Hと(ECC)Q/(ECC)HでA群の方が有意に高い値であった. (3)トルク波形については, A群で術前の遠心性屈筋トルク波形の異常が多く見られた. 正常では膝伸展域でのトルクが屈曲域より高い波形を呈するが, 台形状波形, もしくは伸展域で低下している例がA群で88%, B群で10%(X^2 検定:p<0.01)であった. 今回の結果では術前後にかけ, 両群間の伸筋トルクや, 患/健比の統計的差はなく, むしろ術前A群の屈筋トルクや愚健比の低下が目立った. 更に屈筋の術前遠心性トルクの波形異常や, 術後の求心性トルクの, 患/健比低下が術後走行訓練の円滑な導入の可否に影響している可能性が伺えた. 術後走行訓練導入に際しては術前からの伸展域中心の屈筋強化と術後求心性屈筋力の左右差解消が肝要と思われる.
ISSN:0289-3770