椅子すり抜けテストを用いた脳卒中片麻痺患者の実用的歩行機能の評価
(目的)日常生活における移動手段としての歩行には, 方向転換ならびに周囲への注意力などさまざまな要素が必要とされる. そのため片麻痺患者に対する歩行自立の判定には, 直線歩行速度のみならず多くの要因を加味する必要がある. そこで今回, 動作性注意力を反映する椅子すり抜けテストを用いて, 脳卒中片麻痺患者の歩行の安全性と実用性の一端について検討し, 本テストの有用性について考察したので報告する. (対象)対象は歩行が監視レベル以上である脳卒中片麻痺患者44例(男性23例, 女性21例, 平均年齢61.7±10.2歳)とした. 疾患別内訳は脳出血12例, 脳梗塞30例, その他2例であり, 右片麻...
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Published in | 理学療法学 Vol. 27; no. suppl-2; p. 2 |
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Main Authors | , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本理学療法士協会
2000
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ISSN | 0289-3770 |
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Summary: | (目的)日常生活における移動手段としての歩行には, 方向転換ならびに周囲への注意力などさまざまな要素が必要とされる. そのため片麻痺患者に対する歩行自立の判定には, 直線歩行速度のみならず多くの要因を加味する必要がある. そこで今回, 動作性注意力を反映する椅子すり抜けテストを用いて, 脳卒中片麻痺患者の歩行の安全性と実用性の一端について検討し, 本テストの有用性について考察したので報告する. (対象)対象は歩行が監視レベル以上である脳卒中片麻痺患者44例(男性23例, 女性21例, 平均年齢61.7±10.2歳)とした. 疾患別内訳は脳出血12例, 脳梗塞30例, その他2例であり, 右片麻痺24例, 左片麻痺20例であった. 発症から評価までの期間は1~85ヶ月, 中央値は5.2ヶ月であった. (方法)テストは丸椅子を1m間隔で3個並べ, 2種類の検査を行った. (1)1番目の椅子を左にみて椅子の間を蛇行し, 3番目の椅子を回って再び蛇行しながらスタート地点まで戻る. (2)1番目の椅子を右にみて(1)と同様にスタート地点まで戻る. 続いて椅子の間隔を1.5mとして, 同様に(1)(2)のテストを行った. 被検者にはできるだけ速く, 椅子にぶつからずに中央を通り抜けるよう指示した. テスト中のニアミス(椅子にかする)には0.5点を, 椅子にぶつかったり, バランスを崩した場合には1点を加算し, 計4回のテストの合計点を集計した. 判定は0点陰性, 0.5点疑陽性, 1点以上陽性(1-1.5軽度, 2-2.5中等度, 3以上重度)とし, 対象者を日中の主たる移動手段から自立歩行群, 監視歩行群に分類して2群間を比較した. また下肢Brunnstrom Stageと1ヶ月以内の転倒歴を調査し関連性を検討した. (結果)評価結果は自立歩行群26例で, 陰性19例, 疑陽性3例, 陽性4例(軽度1, 中等度2, 重度1)であった. 監視歩行群は18例, うち陰性1例, 疑陽性2例, 陽性15例(軽度6, 中等度1, 重度8)で, 2群間には有意な差を認めた(P<0.01). なお陽性とされた19例のうち, 麻痺側でのみ加点されたものが14例(73.7%)で, 麻痺側方向への回転時にぶつかり易い傾向にあった. 対象群の下肢Brumstrom Stageは, II 1例, III 14例, IV 14例, V 11例, VI 4例で, Stageとテスト結果の間に相関関係は認めなかった. また, 転倒歴のある群(15例)では無い群(29例)に比較して, 有意に陽性者の多い結果となった(P<0.01). 左右麻痺側間には有意差はなかった. (考察)椅子すり抜けテストは日常生活における危険性を反映するとされている. 今回の結果から本テストは, 注意力全般を反映するのみでなく, 安全性, 巧緻性を含めた総合評価であると考えられた. また転倒予防を考慮した日中の歩行移動自立を許可するための一指標になりうる可能性が示唆された. さらに, 主たる移動に歩行を用いていてもテスト結果が陽性であれば, 本人や家族に転倒などの危険性と具体的な対策についても, 十分指導することが重要であると思われた. |
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ISSN: | 0289-3770 |