片麻痺患者の段差下降動作の運動学的解析

【はじめに】 階段昇降は片麻痺患者にとって困難な動作であり, 特に下降時に不安を訴える者が多い. これには, 種々の要素の関与が考えられるが, 衝撃緩衝能の低下もその一因と推察される. また, 整形疾患についての近年の動作解析では, 衝撃緩衝能が下肢機能を反映することが報告されている. そこで, 片麻痺患者の段差下降動作に注目し, その特性を接地衝撃の観点から検討した. 【対象と方法】 対象は片麻痺患者6名(平均年齢55.3歳)及び健常者7名(平均年齢39.4歳)であった. 片麻痺患者の構成は, 右片麻痺6名(男性3名, 女性3名)で, 補装具を使用せずに歩行可能な者とした. 計測は前方で腕組...

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Published in理学療法学 Vol. 26; no. suppl-1; p. 87
Main Authors 小林 賢, 今井覚志, 遠藤 敏, 市川雅彦, 田中直次郎, 東海林淳一, 須藤彰一, 寺門早苗, 上迫道代, 八並光信, 長谷公隆, 正門由久, 千野直一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 1999
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ISSN0289-3770

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Summary:【はじめに】 階段昇降は片麻痺患者にとって困難な動作であり, 特に下降時に不安を訴える者が多い. これには, 種々の要素の関与が考えられるが, 衝撃緩衝能の低下もその一因と推察される. また, 整形疾患についての近年の動作解析では, 衝撃緩衝能が下肢機能を反映することが報告されている. そこで, 片麻痺患者の段差下降動作に注目し, その特性を接地衝撃の観点から検討した. 【対象と方法】 対象は片麻痺患者6名(平均年齢55.3歳)及び健常者7名(平均年齢39.4歳)であった. 片麻痺患者の構成は, 右片麻痺6名(男性3名, 女性3名)で, 補装具を使用せずに歩行可能な者とした. 計測は前方で腕組みした立位姿勢より, 高さ15cmの台上から患側下肢にて床反力計上へ降りる動作とした. なお, 健常者については, 右下肢を接地させた. また, 対象はすべて同種の靴を着用した. 計測はアニマ社製三次元動作解析装置及び床反力計を用い, 関節位置を示すマーカーは, 患側の肩峰, 大転子, 膝関節外側裂隙, 外果, 第5中足骨骨頭とした. 接地衝撃の評価は, (1)垂直方向の床反力最大値を体重で除した値(以下:Fz/bw), (2)接地より床反力最大値までの時間(以下:Tz), (3)膝・足関節の接地から床反力最大値までの間の角度変化量(以下:Rk, Ra), (4)接地より膝・足関節最大屈曲までの時間(以下:Tk, Ta)とした. また, 計測は数回の練習後に2回行ない, 垂直方向床反力ピーク値の大きいものをデータとして採用した. 【結果】)床反力特性:健常者・片麻痺の順にFz/bw:1.35±0.17kg/bw, 1.45±0.37kg/bw, Tz:147±53msec, 125±54msecと, 片麻痺にて垂直方向の床反力最大値が増大し, その到達時間は短縮した. )関節特性:健常者・片麻痺の順にRk:11.3±3.1°, 4.8±6.7°, Ra:20.2±9.1°, 13.8±9.4°, Tk:138±25msec, 103±44msec, Ta:147±53msec, 119±43msecと, 片麻痺にて膝・足関節屈曲角度が減少し, その到達時間は短縮した. )相関分析:健常者・片麻痺患者ともに, Fz/bwとTz(r=-0.735)及びTa(r=-0.776)との間に負の相関が認められた. 【考察】 段差下降時における接地衝撃の緩衝は, 主として膝・足関節の屈曲運動によることが知られている, 片麻痺患者におけるTk, Ta値の短縮は, 患側の床接地後における大腿四頭筋及び足関節伸筋群の遠心性収縮に基づく緩衝が不十分であることを示唆する. 同時に接地時における足関節の他動的背屈は, 足関節伸筋群の痙性・短縮などに伴って, 二関節筋である内・外側腓腹筋を介した膝関節伸展運動をもたらすと推察され, 荷重時の膝コントロールを困難にすると思われる. したがって, 片麻痺患者では, 床接地後の荷重に伴う患側足関節背屈を健側上肢で緩和するように支持させるよう指導する必要があると考えられる.
ISSN:0289-3770