成人中枢神経疾患の咀嚼嚥下障害における後頸部過剰筋緊張に関する運動学的考察

【はじめに】脳血管障害やパーキンソニズムを中心として見られる咀嚼嚥下障害に対し, 頸部の安定との関係を言及したり, 症例報告の中で後頸部の過剰筋緊張という表現を見る. しかし, それらの事が咀嚼嚥下に関する器官に具体的にどのように影響するか不明な点が多い. そこで, 当院で何らかの咀嚼嚥下障害を持つ患者の咀嚼嚥下状況や後頸部の筋緊張等の調査を行い, どの程度それらの問題があるのか把握し, 後頸部の過剰筋緊張による頭・頸・体幹へのアライメントの変化が咀嚼嚥下に関する器官にどのように影響しているのか運動学的に捉える試みをしたので, 症例を交えて報告する. 【調査方法及び結果】当院の理学療法部門で訓...

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Published in理学療法学 Vol. 26; no. suppl-1; p. 83
Main Authors 新井馨太, 新保朝美, 渡邉奈美子, 関 裕也, 大杉由佳
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 1999
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Summary:【はじめに】脳血管障害やパーキンソニズムを中心として見られる咀嚼嚥下障害に対し, 頸部の安定との関係を言及したり, 症例報告の中で後頸部の過剰筋緊張という表現を見る. しかし, それらの事が咀嚼嚥下に関する器官に具体的にどのように影響するか不明な点が多い. そこで, 当院で何らかの咀嚼嚥下障害を持つ患者の咀嚼嚥下状況や後頸部の筋緊張等の調査を行い, どの程度それらの問題があるのか把握し, 後頸部の過剰筋緊張による頭・頸・体幹へのアライメントの変化が咀嚼嚥下に関する器官にどのように影響しているのか運動学的に捉える試みをしたので, 症例を交えて報告する. 【調査方法及び結果】当院の理学療法部門で訓練を継続していて, 何らかの咀嚼嚥下障害を持つ調査可能な19症例について調査した. その結果として, 全症例に中等度から重度の高い後頸部の筋緊張を認めた. 後頸部の筋緊張の程度と咀嚼嚥下障害の程度との相関は認められなかった. 【症例】発症後8ヶ月経過したクモ膜下出血の55歳男性で痙直型不全四肢麻痺. 坐位保持は監視レベル. 強い後頸部の筋緊張による頸部の過伸展と体幹の屈曲を認めた. 食事は自力で普通食を食べるが水分で頻繁にむせ, 捕食時によくこぼし咀嚼をあまりせずに丸呑みも観察される. Videofluorographyでは食物が口腔内で保持されずに喉頭蓋谷に溜まり, 何度も飲み込もうと試みるが, 舌根部と咽頭後壁が狭めにくく, 嚥下反射の発生が遅くなっていた. 【運動学的考察】調査の中で, 全症例に後頸部の過剰筋緊張を認めたが, それのみで咀嚼嚥下障害が起こるわけではない. 咀嚼嚥下に関する筋は両側支配の比率が高く, 両側脳機能障害による関係筋の働きにくさが基本にあると考える. 一方, 後頸部の過剰筋緊張に代表される顎が突き出た頸椎過伸展のアライメントの変化も影響が大きいのではないかと考え, 以下の如く運動学的考察を試みた. (1)咽頭・喉頭が頸椎前面に押され, 喉頭の上下運動の抵抗になる. (2)茎突舌骨靭帯と舌骨上筋群が引っ張られ, 舌骨の上下の可動性が低下する. (3)舌骨上下筋群が引き伸ばされ閉口に対して抵抗になり, 送り込み・嚥下の際の顎の固定力が低下する. (4)舌骨上筋群の張力が増大する事により, 下顎の前方運動に制限が出る. (5)咽頭収縮筋の走行が水平に近づく為, 嚥下の際に喉頭・舌骨・舌・顎を後上方へ引きつける力が低下する. (6)軟口蓋に対し喉頭が後方に位置する為, 口蓋咽頭筋の張力が増し, その方向が後方に変わる事によって軟口蓋の挙上への抵抗が増加し, 軟口蓋の舌根部への押さえる力が低下する. 以上の事は加齢の問題にも及ぶと思われるが, 既に咀嚼嚥下障害を持つ患者の食事姿勢や訓練に役立てる様具体的工夫が重要と考える.
ISSN:0289-3770