運動療法中に股関節に加わる負荷について

【はじめに】運動療法を行うとき関節への負荷を知ることは重要だが実際の臨床の場ではそれが不明のまま行われていることが多いのが事実である. このことは, 術後免荷が必要とされる股関節疾患患者に対する運動療法においても例外ではない. 【目的】股関節疾患患者に対して通常施行される運動療法での股関節に加わる負荷を表面筋電測定と数学モデルから推定する. 【対象・方法】健常男性10名, 20肢, 平均年齢23歳, 平均体重64.5kgで, 方法は比較的単純な運動である, SLR(仰臥位, 10度, 20度, 30度), 股関節外転(側臥位, 10度, 20度, 30度), 膝伸展(端座位, 60度, 45度...

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Published in理学療法学 Vol. 26; no. suppl-1; p. 18
Main Authors 中島義博, 前田貴司, 今石喜成, 岩佐聖彦, 原野裕司, 志波直人, 山中健輔, 松尾重明, 田川善彦, 有岡美佐
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 1999
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ISSN0289-3770

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Summary:【はじめに】運動療法を行うとき関節への負荷を知ることは重要だが実際の臨床の場ではそれが不明のまま行われていることが多いのが事実である. このことは, 術後免荷が必要とされる股関節疾患患者に対する運動療法においても例外ではない. 【目的】股関節疾患患者に対して通常施行される運動療法での股関節に加わる負荷を表面筋電測定と数学モデルから推定する. 【対象・方法】健常男性10名, 20肢, 平均年齢23歳, 平均体重64.5kgで, 方法は比較的単純な運動である, SLR(仰臥位, 10度, 20度, 30度), 股関節外転(側臥位, 10度, 20度, 30度), 膝伸展(端座位, 60度, 45度, 30度)を対象として, 主動筋と拮抗筋の積分筋電%MVC, Cybexによるトルク値から, モーメント釣り合い, 力の釣り合いの計質式をたて, 股関節の負荷を算出するため, それぞれの測定肢位における主動筋, 拮抗筋の最大等尺性収縮での表面積分筋電を測定し, これを100%MVCとしてこの時のトルクをCybex6000(ヘンリージャパン社製)で測定した. 主動筋の100%MVCの測定は目的肢位での等尺性最大収縮, 拮抗筋の測定測定動作と同一肢位で, 逆の動作で拮抗筋が主動となる等尺性最大収縮で, それぞれ筋電, トルクを測定した. 次に, 目的の運動の筋電を測定し, これからそれぞれの%MVCを求めた. 計測は, Cybexでは各2回, 5秒間施行し, 休息を30秒とし, 運動療法では, 各2回, 10秒間保持させた. これにより求めた筋力をそれぞれのモーメント, 力の釣り合い式に代入し股関節に加わる骨頭合力を算出した. 【結果】SLRは10度が約908Nで体重の約1.4倍, 20度が約765Nで体重の約1.2倍, 30度が約657Nで体重の1.0倍となり, 角度が上がるにつれ骨頭合力が減少した. 股関節外転は10度が約1130Nで約1.8倍, 20度が約992Nで約1.5倍, 30度が約844Nで約1.3倍となり, 角度が上がるにつれ骨頭合力が減少した. 膝伸展は, 60度が約127Nで約0.2倍, 45度が約141Nで約0.22倍, 30度が約161Nで約0.25倍となり, 伸展するにつれ骨頭合力が増加する傾向にあった. 【考察】モーメント及び力の釣り合い式を用いて股関節に加わる負荷を算出した. 以前から運動療法中の股関節への負荷についての報告は, 幾つかされており, Bergmann1)らは生体内に人工股関節にセンサーを埋め込み, 測定にて, 歩行は体重の3~4倍と報告し, SLRに関しては, 我々の計算値とほぼ同等の体重の1.3倍と報告しており, 股関節には予想以上に大きな負荷が加わっている. この生体実験では正確さと直接測定という利点があるが, 個体差や限定された測定となる, 今回用いたシミュレーションでは非侵襲で被検者数も多く, 個体差も補正され, 自由に運動が設定できる利点があるが, モデル化のための簡略化が必要で, 運動と肢位によっては一部の筋や靭帯等の他動的張力も関与すると考えられ, これらの要素を考慮する必要がある. しかし, 我々の方法は, 生体実験との比較で, 十分に運動療法中の股関節へ加わる負荷を反映できると考えられ, 運動療法の内容を検討する指標として, 他の運動についても検討する. 【参考文献】1)G.Bergmann et al,in vivo Messung der Huftgelenkbelastung Krankengymnastik,1988.
ISSN:0289-3770