硬膜外内視鏡 Failed Back Surgery Syndromeに対する治療成績

【目的】 Failed Back Surgery Syndrome(FBSS)は保存的治療では治療効果が得られにくい難治性の慢性疼痛疾患である. その病態は未だに明らかにはなっていない. 脊椎手術後の硬膜外腔の癒着, 末梢神経の物理的障害, 神経根の損傷などがその主たる原因ではないかと推測されている. また, 椎間関節性腰痛, 筋筋膜性腰痛, 心因性疼痛などの付随症状が複雑に絡んでいることが多い. 今回我々はFBSS患者に対して硬膜外腔鏡を利用し, video/fluoro補助下に物理的に硬膜外の剥離(Spinal endoscopy and epiduroplasty:SEE)を施行し, そ...

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Published in日本ペインクリニック学会誌 Vol. 9; no. 3; p. 152
Main Authors 服部政治, 山本一嗣, Choi Young K, 池邉晴美, 野口隆之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ペインクリニック学会 2002
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Summary:【目的】 Failed Back Surgery Syndrome(FBSS)は保存的治療では治療効果が得られにくい難治性の慢性疼痛疾患である. その病態は未だに明らかにはなっていない. 脊椎手術後の硬膜外腔の癒着, 末梢神経の物理的障害, 神経根の損傷などがその主たる原因ではないかと推測されている. また, 椎間関節性腰痛, 筋筋膜性腰痛, 心因性疼痛などの付随症状が複雑に絡んでいることが多い. 今回我々はFBSS患者に対して硬膜外腔鏡を利用し, video/fluoro補助下に物理的に硬膜外の剥離(Spinal endoscopy and epiduroplasty:SEE)を施行し, その後も外来治療を継続することで患者の症状を軽減させることに成功したので, その治療成績を報告する. 【対象と方法】 FBSSのカテゴリーに入り, かつ理学療法, 内服治療, 仙骨硬膜外ブロック, 大腰筋筋溝ブロック, 椎間関節ブロック, 神経根ブロックなど各種神経ブロック療法を行ったにも関わらず症状の改善が認められない患者のうち, 仙骨硬膜外造影で硬膜外腔癒着の見られる15名を対象とした. 手術は腹臥位で行い, 神経損傷を避けるため局所麻酔下に鎮静剤等を投与せずに行った. 硬膜外腔鏡の視野を確保するため生理食塩水を利用し, ガイドカテーテルの位置はX線透視で確認しながら行った. 平均手術時間は約2時間, 術中に使用した生理食塩水は平均45±12mlで, 神経根に近い部位を剥離し患者が強い痛みを訴えた場合には, 少量の鎮痛薬を全身投与した. 手技の最後に0.25%bupivacaine 20ml+methylprednisolone 40mgをguide catheterより注入し, 術後は12時間ベッド上安静とした. 治療による改善度は1)Roland Morris Disability Questionairre(RDQ), 2)Oswestry Disability Index(ODI), 3)日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準(JOA)を用いて術前, 術後4週間, 12週, 24週でのADLの変化で評価した. 術中, 術後とも後遺障害を残すような合併症は見られなかった. 術後は外来にて1ないし2週に1回の割合で仙骨硬膜外ブロックを, 残存症状に対して適宜椎間関節ブロック, 大腰筋筋溝ブロック等を継続した. 【結果】 患者の平均年齢は66.4±14.7歳(±SD), 男女比10:5. 術前と術後4W, 12W, 24Wでの中央値はRDQで12→5→7→5. 5, ODIで26→18→16→14.5, JOAで13→20→20→21とADLの有意な改善を見た. 統計学的評価はFriedman検定を行い, 多重比較にDunnet法を用いてp<0.05を有意とした. また, 手術に対する満足度調査では15名のうち13名が「満足」「大変満足」を選択した. 【考察と結論】 硬膜外腔鏡手術(SEE)は難治性腰下肢痛に対して効果のある低侵襲手術として最近注目されている. なかでもFBSSは難治性の最たるもので患者はもちろんのこと医療従事者をも悩ませる疾患である. その病態生理はまだ明らかではないが, 今回の我々の結果から硬膜外癒着を剥離するだけでなく, 椎間関節ブロック, 大腰筋筋溝ブロックなどを継続することもこの複雑な痛みを呈する患者のADLを改善させる治療法であると思われた. さらに我々の施設では最近, 一度のSEEでは治療効果の不十分であった症例に対しては, 仙骨硬膜外造影にて描出されなかった神経根に物理的癒着剥離(radiculoplasty)を行い, 同部位に硬膜外カテーテルを留置するtarget spinal endoscopy and radiculoplasty(target SEE)を施行しているので併せて報告する.
ISSN:1340-4903