幻肢痛症例に対して経皮的埋め込み脊髄電気刺激療法は有効か

経皮的硬膜外通電法(以下, PISCES)が奏効した幻肢痛症例を紹介し, その奏効機序につき考察を加える. 【症例】32歳, 男性, 左官業. 主訴は右上肢完全切断後の幻肢痛. 既往歴, 家族歴に特記すべき事項はない. 1997年6月11日, 右上肢をベルトコンベヤーに巻き込まれ上腕中部より, 完全切断. 本学救命救急センターへ搬送され, 再接着術を試みられるが, 切断肢の状態が悪く, 同16日, 右肩関節離断術及び断端形成術を受けるに至った. なお, 受傷直後より右上肢の幻肢覚(大塚のI型)と共に, 灼熱感を自覚し, 疼痛は徐々に増強した. 同年9月5日, 当院を紹介受診. VASで50~9...

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Published in日本ペインクリニック学会誌 Vol. 5; no. 3; p. 379
Main Authors 坂口雅彦, 森本昌宏, 河田圭司, 口分田理, 村上晴也, 蔵 昌宏, 古賀義久
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ペインクリニック学会 1998
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Summary:経皮的硬膜外通電法(以下, PISCES)が奏効した幻肢痛症例を紹介し, その奏効機序につき考察を加える. 【症例】32歳, 男性, 左官業. 主訴は右上肢完全切断後の幻肢痛. 既往歴, 家族歴に特記すべき事項はない. 1997年6月11日, 右上肢をベルトコンベヤーに巻き込まれ上腕中部より, 完全切断. 本学救命救急センターへ搬送され, 再接着術を試みられるが, 切断肢の状態が悪く, 同16日, 右肩関節離断術及び断端形成術を受けるに至った. なお, 受傷直後より右上肢の幻肢覚(大塚のI型)と共に, 灼熱感を自覚し, 疼痛は徐々に増強した. 同年9月5日, 当院を紹介受診. VASで50~90と変動する痛みを訴えた. 持続硬膜外ブロック, 星状神経節ブロックなどにより治療を開始したが, 十分な除痛効果は得られなかった. 同年11月26日, PISCES電極を挿入(電極先端は第3頚椎下縁に)留置し, 通電を行ったところ, 疼痛の消失をみた. 12月3日, レシーバーの永久埋め込みを行い, 以後, 1日に2~3回, 1時間程度の通電により, 良好な効果を持続している. 【考察】1979年, Nasholdらは, 脊髄後角細胞への入力消失による以上が幻肢通の発症因子であるとして, 脊髄後角進入部破壊術を行い, 約67%の有効率を得たと報告した. また, 一方で大脳皮質の関与も大きいとする報告もある. いずれにせよ, 幻肢痛発症後の期間により, これらの因子の関与の度合いは変化するものと推察される. 今回, 発症5ヶ月後の幻肢痛症例において, PISCESの有効性を確認したが, われわれの経験では, 長時間を経た症例では無効なことが多い. 事実, PISCESが奏効したとする幻肢痛症例に関する報告は極めて少ない. 従って, 今後, PISCESの適応に関しては, 幻肢痛発症後の期間別の検討を重ねる必要があると考える. 【結語】PISCESは, 発症後期間を経ていない幻肢痛症例に対して試みられるべき治療法のひとつであると考えられた.
ISSN:1340-4903