術中・術後使用の硬膜外カテーテル技去後に一過性に脊髄横断症状を呈した一例
硬膜外麻酔施行に際し種々の神経系合併症を生じることがあり, 時に重篤な結果となる. 今回, 硬膜外カテーテル抜去後に一過性に脊髄横断症状を呈した症例を経験した. 【症例】57歳, 男性. 直腸癌に対し高位前方切除術が予定された. Th11/12間からの硬膜外カテーテル挿入に抵抗はなく, 硬膜外麻酔に亜酸化窒素・セボフルランの気管内麻酔を併用した. 術中は軽度低血圧を生じた以外問題なく, 手術は試験開腹のみで終った. 術後鎮痛のため1%メピバカインの持続注入(5-7ml/H)を術後2日目朝のカテーテル抜去時まで続けた. カテーテル抜去直後(9:30頃)に刺入部付近にキリキリ刺す激痛を生じ, 次第...
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Published in | 日本ペインクリニック学会誌 Vol. 4; no. 3; p. 124 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本ペインクリニック学会
1997
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ISSN | 1340-4903 |
Cover
Summary: | 硬膜外麻酔施行に際し種々の神経系合併症を生じることがあり, 時に重篤な結果となる. 今回, 硬膜外カテーテル抜去後に一過性に脊髄横断症状を呈した症例を経験した. 【症例】57歳, 男性. 直腸癌に対し高位前方切除術が予定された. Th11/12間からの硬膜外カテーテル挿入に抵抗はなく, 硬膜外麻酔に亜酸化窒素・セボフルランの気管内麻酔を併用した. 術中は軽度低血圧を生じた以外問題なく, 手術は試験開腹のみで終った. 術後鎮痛のため1%メピバカインの持続注入(5-7ml/H)を術後2日目朝のカテーテル抜去時まで続けた. カテーテル抜去直後(9:30頃)に刺入部付近にキリキリ刺す激痛を生じ, 次第に腹部痛も加わった. 抜去後約30-40分に抗癌剤テガフール坐剤を使用, さらに約5-10分後背部の激痛に対しジクロフェナックナトリウム坐剤を使用し急速に背部痛, 腹部痛は消失したが, 知覚低下・脱力が右下肢先端より急速に両下肢全体に拡がることに気づく. 11:15診察時には不安感・軽度の呼吸苦があり, 両下肢の弛緩性麻痺, 両側Th10以下の痛覚・触覚および冷覚の消失, 両下肢を屈曲位に保つような関節位置覚異常, 尿意消失がみられた. 硬膜外血腫を疑いMRI撮影を行い, その施行中(12:30頃)より下肢のピクつく感じが出現. 13:00頃には知覚・運動の回復が始まり, その後1時間以内にほぼ正常状態となった. MRIでは異常所見なし. 退院までの一時期, 腹部痛・下腿痛を生じたが, 後遺症はなかった. 【考察】硬膜外麻酔に伴う神経系合併症として極めて稀だが, 永続的な知覚・運動障害発現の報告があり, 原因として穿刺針やカテーテルによる損傷, 硬膜外血腫, 硬膜外膿瘍あるいは脊髄梗塞などを挙げている. 本症例の原因は明確でないが, 症状が一過性であること, カテーテル留置より抜去までの2日間には異常所見はないこと, 硬膜外カテーテルの抜去を契機に症状の進展がみられていることより, 抜去時の硬膜・くも膜の損傷による残存局所麻酔薬のくも膜下腔内への誤入, あるいは脊髄栄養血管の攣縮が関与した可能性がある. |
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ISSN: | 1340-4903 |