前十字靱帯新鮮損傷に対する関節制動と運動が靭帯再生に及ぼす影響

[目的]井原, 三輪, 高柳らは, ヒトの膝前十字靭帯(以下ACL)の完全断裂でも, 脛骨の前方動揺を制動する特殊な膝装具と運動療法により完全に治癒することをはじめて明らかにした. 追加研究がなされ, 日本での関心が最も高いにもかかわらず, ACLの治癒力を促進する積極的な保存療法は選択されていない. 欧米においては現在でも, 膝内側側副靭帯の保存治療と比較し, 解剖学的相違, 生化学的要素の相違, 生体力学的相違などの要因を挙げ, ACLの保存治療は成功しないとされる. 保存治療によってACLが治癒する要因として, 1)関節運動, 2)生理的範囲での適切な力学情報の必要性が示唆された. 本研...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 5
Main Authors 高柳清美, 青木光広, 吉村理
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
公益社団法人日本理学療法士協会
Japanese Physical Therapy Association (JPTA)
Subjects
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ISSN0289-3770

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Summary:[目的]井原, 三輪, 高柳らは, ヒトの膝前十字靭帯(以下ACL)の完全断裂でも, 脛骨の前方動揺を制動する特殊な膝装具と運動療法により完全に治癒することをはじめて明らかにした. 追加研究がなされ, 日本での関心が最も高いにもかかわらず, ACLの治癒力を促進する積極的な保存療法は選択されていない. 欧米においては現在でも, 膝内側側副靭帯の保存治療と比較し, 解剖学的相違, 生化学的要素の相違, 生体力学的相違などの要因を挙げ, ACLの保存治療は成功しないとされる. 保存治療によってACLが治癒する要因として, 1)関節運動, 2)生理的範囲での適切な力学情報の必要性が示唆された. 本研究の目的は, ヒトの新鮮ACL損傷の装具療法に基づいた, 保存療法の動物モデルを作製し, 膝関節の前方制動と運動療法によって断裂ACLがどのように変化するかを観察することである. [方法]週齢30週, 日本白色家兎30羽を対象とした. ACL切断とサイム切断により免荷を行った群(PW群:n=6), ACL切断後人工靭帯補強を行い, 3週間の関節固定後に関節運動を自由にした群(Fx群:n=12), ACL切断後人工靭帯補強を行い, 術直後より自由にした群(Fr群:n=12)の3群を作製した. ACLの切断は, 膝前方より皮切, 侵入し, 大腿骨付着部でACLを完全に切離した. 人工靭帯補強では, 大腿骨顆部後方と脛骨粗面近傍に骨孔をあけ, 人工靱帯を用いてウサギACLの走行に一致させ内, 外側側副靱帯を再建し, 脛骨の前方引出しと回旋を制動させた. 平均12週経過後屠殺し, 靭帯の連続性が確認されたものに対し, 正常ACLの走行に沿って切片を作成しHE染色, アザン染色を行った. [結果]PW群では6例全例で靭帯が退縮していた. Fx群では10例に断裂したACL周辺の癜痕組織形成と連続性が確認され, 1例にinfection, 1例に変形性関節症が生じていた. Fr群では6例に断裂したACL周辺の癜痕組織形成と連続性が確認され, 2例にinfection, 3例に変形性関節症, 1例に脱臼と変形性関節症が生じていた. [考察]O'donoghueらは犬, Heftiらはウサギを用いた実験で, ACLを切断し放置, あるいはギプス固定すると, 膝の前後方向の不安定性, ACLの退縮, 変形性関節症が生じたとした. 下肢の免荷と自由な関節運動を意図したPW群では靭帯の再生は起こらず, 膝関節の前後方向の制動と運動を行なったFx群, Fr群で靭帯再生が認められた. 特に靭帯修復過程のinflammatory期に膝関節の安静を計ったFx群で好成績となった. 今後, ACL完全断裂に対して保存治療により組織学的, 免疫組織化学的に靭帯再生を証明し, 運動療法の有効性を明らかにすることで, ACL断裂に対する保存療法を世界に向けて発信することが可能だと考える.
ISSN:0289-3770