人工呼吸管理後の嚥下障害の頻度と臨床的特徴

【はじめに】高齢者に対する呼吸管理を行う機会が増加する中, 気管内挿管下に人工呼吸管理を行った症例のうち, 抜管後新たに嚥下障害や排痰困難をきたすことを経験する. このような症例では, 誤嚥や分泌物の自己喀出に難渋し, 離床やADLの改善に支障をきたす場合が少なくなく, 臨床上大きな問題となる. 今回, 人工呼吸管理後に新たに嚥下障害を呈した症例の臨床的特徴について報告する. 【対象, 方法】対象は1999年4月から2002年3月までに当院にて気管内挿管, 人工呼吸管理となり, 理学療法が処方された187症例のうち, 脳血管障害, 精神科疾患, 重度の痴呆, 神経筋疾患および頚髄損傷, 一度も...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 348
Main Authors 朝井政治, 神津玲, 俵祐一, 宮崎哲哉, 中村美加栄, 藤島一郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:【はじめに】高齢者に対する呼吸管理を行う機会が増加する中, 気管内挿管下に人工呼吸管理を行った症例のうち, 抜管後新たに嚥下障害や排痰困難をきたすことを経験する. このような症例では, 誤嚥や分泌物の自己喀出に難渋し, 離床やADLの改善に支障をきたす場合が少なくなく, 臨床上大きな問題となる. 今回, 人工呼吸管理後に新たに嚥下障害を呈した症例の臨床的特徴について報告する. 【対象, 方法】対象は1999年4月から2002年3月までに当院にて気管内挿管, 人工呼吸管理となり, 理学療法が処方された187症例のうち, 脳血管障害, 精神科疾患, 重度の痴呆, 神経筋疾患および頚髄損傷, 一度も抜管に至らず気管切開となったもの, を除いて, 抜管ができた55例(平均年齢72.2±12.3歳, 男性43例, 女性12例)とした. 方法は, カルテから, 嚥下障害の有無を調査し, 嚥下障害を呈した症例の 1)患者背景, 2)人工呼吸管理, 3)気道分泌物貯留, 4)嚥下機能評価結果, について調査した. なお, 嚥下障害の有無については, 問診と身体所見, および主治医や担当看護婦からの情報, 嚥下機能評価の結果より判定した. 【結果】嚥下障害を認めた症例は55例のうち4例(7%)であった. 以下に各症例の臨床的特徴を示す. 症例1:77歳, 男性. 肺炎, 肺結核後遺症. 挿管2日. 予定外抜管あり, 鎮静なし. 分泌物貯留中等度. 症例2:84歳, 男性. 急性肺水腫, 心不全, 肺炎, 腎不全. 挿管5日. 予定外抜管なし, 鎮静5日. 分泌物貯留多量. 症例3:84歳, 男性. 塵肺, COPD, 喘息. 挿管8日. 予定外抜管あり, 鎮静7日. 分泌物貯留多量. 症例4:73歳, 男性. 肺炎, 間質性肺炎. 挿管24日. 予定外抜管あり, 鎮静22日. 分泌物貯留多量. 上記症例では, 後期高齢者, 予定外抜管の経験, 鎮静が行われていた症例がそれぞれ3例で, いずれの症例でも分泌物の貯留を認め, 抜管後の経口のみによる栄養摂取困難と診断された. 残る51例の平均年齢は71.6歳, 挿管期間平均6.9日, 鎮静28例, 予定外抜管5例であった. 【考察】今回, 人工呼吸管理後に新たに生じた嚥下障害の頻度と臨床的特徴を調査した. その結果, 中枢神経疾患や神経筋疾患, 精神科疾患など嚥下障害のリスクを有さない症例で, 抜管後に嚥下障害を呈した症例は7%と必ずしも多くなかった. しかし, 嚥下障害を認めた4例はいずれも経口からの摂食は困難であった. 人工呼吸管理に至るような重症の急性呼吸障害を呈した症例では, critical illness neuropathyやmyopathyを呈する場合があると報告されている. 上記4症例を細かく比較してみても, 一定の傾向は認められず, 特に原因と考えられるものがなかったことから, この状態にあったことも予想された. これは回復に長い期間を必要とするため, 人工呼吸器離脱直後だけでなく, 継続的, かつ注意深いサポートが必要と考えられた.
ISSN:0289-3770