脳卒中片麻痺患者の体幹傾斜時における内省報告の検討(第2報)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の体幹機能はトランスファーや歩行などの移動動作の安定性に重要である. 我々は第37回日本理学療法学術大会において, 座位姿勢時における他動的体幹傾斜時の内省報告から, 麻痺側, 非麻痺側いずれかの方向に対し「恐怖心」を有し平衡機能に影響していること, 体幹機能の評価及び治療には, そうした心理的な側面も踏まえることの重要性について報告した. 今回さらに体幹の自動, 他動傾斜及び開眼, 閉眼時における内省報告について調べ検討を加えた. 【対象】当院入院中及び外来通院中の片麻痺患者24例(右半球病変10名, 左半球病変14名). 平均年齢61.7±10.2歳. 発症から...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 118
Main Authors 菅原恭子, 大野範夫, 沼田憲治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
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Summary:【はじめに】脳卒中片麻痺患者の体幹機能はトランスファーや歩行などの移動動作の安定性に重要である. 我々は第37回日本理学療法学術大会において, 座位姿勢時における他動的体幹傾斜時の内省報告から, 麻痺側, 非麻痺側いずれかの方向に対し「恐怖心」を有し平衡機能に影響していること, 体幹機能の評価及び治療には, そうした心理的な側面も踏まえることの重要性について報告した. 今回さらに体幹の自動, 他動傾斜及び開眼, 閉眼時における内省報告について調べ検討を加えた. 【対象】当院入院中及び外来通院中の片麻痺患者24例(右半球病変10名, 左半球病変14名). 平均年齢61.7±10.2歳. 発症からの期間約3ヶ月から9年9ヶ月. 【方法】対象患者について以下の検査を行った. 体幹傾斜時の内省報告:被験者は足底接地, 両上肢を組んだ座位姿勢とした. 被験者の左右いずれかの方向への体幹傾斜は(1)セラピストが加えた外乱による条件(他動傾斜)(2)被験者自ら傾斜する条件(自動傾斜). (1)(2)は各々開眼および閉眼で施行し, その時の内的状態について回答を求めた. 神経心理学的検査:Mini-mental state test. 線分末梢. 線分二等分線(視空間失認). 患側上下肢の指さしテスト(身体失認). 麻痺の理解に関する質問(病態失認). 上肢の慣習的動作(運動失行). motor impersistence. その他:CT画像による病巣領域. Burunnstrome stage. 感覚検査. 歩行能力. 【結果】各体幹傾斜条件で「怖い, 倒れそう」等の恐怖を示す表現が認められた. 恐怖表現の強さを他動傾斜と自動傾斜間で比較すると, 他動傾斜条件時での恐怖心の方が強くなるタイプは14例(開眼-閉眼条件で変化のない者9例, 閉眼で恐怖心が強くなる者4例, その他1例)であった. 自動傾斜条件時での恐怖心の方が強くなるタイプは4例(開眼-閉眼条件で変化のない者3例, その他1例). 両条件間で恐怖心に差がない者は6例で, 1例は特に恐怖心の訴えはなかった(開眼-閉眼条件で変化の無い者5例, 閉眼時に恐怖心が強くなる者1例). 高次脳機能障害は運動性失語5名, 半側無視1名, 運動失行, 病態失認, MI陽性は0名であった. 歩行レベルは介助3名, 監視13名, 自立8名. 感覚障害は14名に認められた. これらは各体幹傾斜条件における恐怖心とは一定の傾向はなかった. 【考察】体幹傾斜時における恐怖心は自動傾斜条件に比べ他動傾斜条件でより強くなる傾向がみられた. このことから心理的要因による体幹バランスの特異的傾向を評価することの必要性とともに, 患者の随意的な運動による体幹アプローチの有効性も示唆される. また, 視覚情報の有無により心的変化に差のある症例は少なかった. これは体幹傾斜を感知する方略には体性知覚, 前庭系など視覚以外の情報の利用が考えられる. 今回の結果から, 片麻痺患者の体幹バランスを感知する方略は個々によって多様であったともいえる. 患者を取りまく環境や状況をどのように知覚し, 適応しているのかという視点から評価し治療方法を考慮することも重要と考える.
ISSN:0289-3770