輸血の過去, 現在そして未来

1. 古典的な輸血の時代 血液が人間の生命自身の根源, spiritであるということは, 古代エジプト, ローマ時代から人々は本能的に知っていたようである. 有史以来, 様々な輸血の方法が試みられてきた. 1492年, ローマ法王Innocent 8世が危篤状態に陥ったとき, 3人の青年の血が死に到るまで絞りとられ, 法王がそれを飲まされたという. しかし輸血が極めて盛んになったのは17世紀頃からであった. 1667年, フランス国王Louis 14世の侍医Jean Baptiste Denysは, 輸血の熱烈な信奉者で, 4名の貧血患者に仔羊の血液を輸血したと記録にある. ところが, 副作用...

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Published in日本輸血学会雑誌 no. suppl; pp. 97 - 119
Main Author 遠山博
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 10.11.2003
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Summary:1. 古典的な輸血の時代 血液が人間の生命自身の根源, spiritであるということは, 古代エジプト, ローマ時代から人々は本能的に知っていたようである. 有史以来, 様々な輸血の方法が試みられてきた. 1492年, ローマ法王Innocent 8世が危篤状態に陥ったとき, 3人の青年の血が死に到るまで絞りとられ, 法王がそれを飲まされたという. しかし輸血が極めて盛んになったのは17世紀頃からであった. 1667年, フランス国王Louis 14世の侍医Jean Baptiste Denysは, 輸血の熱烈な信奉者で, 4名の貧血患者に仔羊の血液を輸血したと記録にある. ところが, 副作用で患者はまっ黒な尿を出したという. まさに溶血性副作用の世界第一例の報告といえるが, 4名のうち1名が死亡するに至り, Denysは殺人者として裁判にかけられた. 長い法廷闘争の末, 結局無罪となったが, パリ大学, 英国国会, 法皇庁という三つの権威ある団体が輸血禁止令を出したという.
ISSN:0546-1448