近赤外線分光法による自律神経の評価

【はじめに】近赤外線分光法(NIRS)は, 酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の濃度変化を相対的に測定する方法である. 非侵襲的に測定されたoxy-Hbとdeoxy-Hbの和である総ヘモグロビン(Total-Hb)は, 深部組織である筋内の血流動態を反映している. 本研究では, venous filling testの様に, 上肢を挙上, 保持して, 筋内の血流を強制的に中枢側に潅流させた後, 上肢を下垂した際に起こる血流の変動を自律神経の1つの反射活動の指標とした. 【目的】本研究の目的は, 上肢の筋組織内の血流動態から, 自律神経の活動を評価することで...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 246
Main Authors 藤原孝之, 烏野大, 千賀富士敏, 諸角一記, 遠藤敏裕, 山本巌
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
公益社団法人日本理学療法士協会
Japanese Physical Therapy Association (JPTA)
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ISSN0289-3770

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Summary:【はじめに】近赤外線分光法(NIRS)は, 酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の濃度変化を相対的に測定する方法である. 非侵襲的に測定されたoxy-Hbとdeoxy-Hbの和である総ヘモグロビン(Total-Hb)は, 深部組織である筋内の血流動態を反映している. 本研究では, venous filling testの様に, 上肢を挙上, 保持して, 筋内の血流を強制的に中枢側に潅流させた後, 上肢を下垂した際に起こる血流の変動を自律神経の1つの反射活動の指標とした. 【目的】本研究の目的は, 上肢の筋組織内の血流動態から, 自律神経の活動を評価することである. 【方法】実験の同意を得た被験者から, 上肢に障害の既往または筋肉痛や冷え症などの訴えがあった3名を除いた健常成人14名(男性5名, 女性9名)を対象とした. 被検者の年齢は19-58歳, 身長は151-171cm, 体重は42-85kgであった. 測定上肢(右7肢, 左7肢)は無作為に振り分けた. NIRS(浜松ホトニクス社製, NIRO300A)のプローブを前腕部(尺側手根屈筋)及び上腕部(上腕二頭筋内側頭)の筋腹中央に配付した. 測定肢位は椅子坐位とし, 肘関節90度屈曲位となる様に台を設置した. 測定は1分間の安静後, 他動的に肘関節軽度屈曲位, 肩関節約160度まで挙上し20秒間保持した後, 元の肢位にて安静を取らせた. さらに再び挙上運動を繰り返し, 合計3回の挙上運動と安静を行い, 5分間の計測を行った. 挙上後1分間の安静時のTotal-HbをBIMUTAS-E ver.E2.20(キッセイコムテック社製)を用いて解析した. 次の挙上動作前の10秒間より各波形の基線を再算出後に3回分を加算平均化処理し, 安静開始時から20秒間毎の3区間(T1, T2, T3)に分けて積分処理を行った. 統計処理は, SPSS ver.11Jを用いて解析を行った. 【結果】3区間の積分値の平均値は, 挙上後より上腕部では, 112.7μM.sec, 34.5μM.sec, 4.9μM.secであり, 前腕部では265.7μM.sec, 51.1μM.sec, 7.7μM.secであった. 両者とも時間経過と伴に有意に積分値が減少した(p<0.01). 1分間の積分値では, 上腕部と前腕部の間に, 相関係数r=0.67の正の相関が見られた(p<0.01). 再算出された基線と交差するまでの時間の平均値は, 上腕部で38.1sec, 前腕部で40.1secであった. 同様に相関係数r==0.80の正の相関が見られた(p<0.01). 【考察】積分値の低下は, 目標とする定常状態に近づくことを示している. 上腕部と前腕部の血流が定常状態に戻るまでには, これらの結果から考えて40秒程度が必要とされることが明らかになった. 臨床上簡易的に用いられる検査では, 皮膚の蒼白化などを指標として皮静脈への動脈血の充満度を推定する. その際の回復時間は正常で7-10秒の範囲であるが, 筋内での血流が安定するまでにはより時間が必要であるとことが確認された. 積分値において, T2はT1の30%程まで低下している. この結果より, 特に血流変動の大きいT1の区間で, 自律神経が積極的に働いていると推定される.
ISSN:0289-3770