肩投球障害に対して行なった前方安定化手術の術後理学療法の経験

【はじめに】肩投球障害の治療は保存療法が原則である. しかし器質的変化が存在すると考えられる場合や, 3ヶ月以上継続的に理学療法を行っても復帰できない場合には手術療法の選択を余儀なくされる. 近年, 肩投球障害に対しては鏡視下に手術が行われるようになり復帰率の向上が期待されるが, 手術操作に則した安全かつ効果的な理学療法が必要となる. しかし, 肩投球障害に対する鏡視下手術後理学療法に関しての報告は少ないのが現状である. そこで今回, 肩投球障害に対する鏡視下前方安定化手術の術後に行っている理学療法について我々の経験をまとめ若干の考察を加えて報告する. 【対象】2001年1月から7月までに当院...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 42
Main Authors 山本泰雄, 菅靖司, 当麻靖子, 鈴木由紀子, 川越寿織, 山田摩美, 伊藤実樹子, 重田光一, 黒川宏伸, 瀧内敏朗, 岡村健司, 山村俊昭, 小畠昌規, 中野和彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
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Summary:【はじめに】肩投球障害の治療は保存療法が原則である. しかし器質的変化が存在すると考えられる場合や, 3ヶ月以上継続的に理学療法を行っても復帰できない場合には手術療法の選択を余儀なくされる. 近年, 肩投球障害に対しては鏡視下に手術が行われるようになり復帰率の向上が期待されるが, 手術操作に則した安全かつ効果的な理学療法が必要となる. しかし, 肩投球障害に対する鏡視下手術後理学療法に関しての報告は少ないのが現状である. そこで今回, 肩投球障害に対する鏡視下前方安定化手術の術後に行っている理学療法について我々の経験をまとめ若干の考察を加えて報告する. 【対象】2001年1月から7月までに当院を受診し, 肩投球障害の診断で理学療法を行った野球選手69名中, 手術に至ったものは12名(17%)であった. この内術後6ヵ月以上の経過観察が可能であった7名を対象とした. 全例男性, 利き手側の手術であった. 手術時平均年齢25.6歳(17~49歳). 投手2名, 捕手2名, 野手3名であった. 全例競技レベルで高校生1名, 大学生4名, 社会人2名であった. 術前, 全例で肩前方不安定性を示すrelocationテストが陽性であった. 手術は全例上方関節唇修復及び前方安定化操作として関節包熱収縮や腱板疎部関節包縫縮を行い, 必要に応じてBennett骨棘の形成や肩峰下除圧が加えられた. 理学療法は手術1週後から特に外旋を制限した可動域運動を開始し, 投球を再開する満12週での最大可動域の獲得を目指した. また筋力回復運動は腱板への低負荷運動を中心とした第一段階から肩甲骨周囲筋や三角筋の筋力回復を目的とした第二段階, 円滑に投球に移行するために必要な各筋を協調的に強化する第三段階へと段階的にすすめた. 【結果】全例経過観察中に投球時痛は消失または軽減した. 筋力は平均で外転90.7Nから100.9N, 第一肢位外旋129.7Nから146.8N, 第二肢位外旋135.9Nから146.9Nへとおおむね術前よりも増加傾向を示した. また可動域は第二肢位外旋を除きその回復は良好であった. しかし第二肢位外旋可動域の回復は12週から31週とばらついた. 野球復帰は, 投手2名, 捕手1名, 野手3名が完全復帰を果たした. 外旋の回復が遅れた1名がまだ不完全復帰であった. 【考察】結果は短期成績ではあるものの完全復帰6名(86%), 残り1名も野球復帰は果たしており, 復帰率は他の報告と比較して遜色ないものであった. 手術は器質的損傷の修復に加えて肩前方の安定化を図ったものである. 従って術式の特徴から, 外旋制限の残存が懸念される. 一方投球動作では肩外旋とりわけ外転位での外旋可動域の確保が重要となる. 実際外旋制限の回復が遅れた1名がやや不十分な経過を示している. 術後理学療法は手術の効果を損なわずに外旋可動域を再獲得させることが重要であり, 僅かに外旋を制限しつつ理学療法を進める加減が肝要と思われた.
ISSN:0289-3770